根こぶ病耐性ブロッコリー
根こぶ病とは
根こぶ病は、フィトミキセア(Phytomyxea)に属する原生生物 Plasmodiophora brassicae が引き起こすアブラナ科作物の重要土壌病害です。分類学上、一般的な糸状菌(カビ)や卵菌類とは異なるグループに属しますが、防除の難しさという点では土壌病害の中でも特に厄介な部類に入ります。
最大の特徴は、土壌中に長期間生存できる休眠胞子を形成することです。この休眠胞子は、宿主植物が存在しない条件下でも10年以上にわたって土壌中で生き続けるとされており、一度感染した圃場から病原菌を完全に除去することは極めて困難です。
主な症状として、根に大小のこぶ(腫瘤)が形成されます。こぶが発達すると根の水分・養分吸収機能が著しく阻害され、地上部ではしおれ・黄変・生育不良が発生します。ブロッコリーでは花蕾(頂花蕾)の充実不良や奇形が起こり、出荷規格を満たせなくなるケースも少なくありません。重症の場合は株が枯死することもあります。
根こぶ病は土壌pHが酸性(pH6.0以下)で発生しやすく、土壌水分が多い条件で遊走子の活動が活発になります。発病適温は20〜25℃前後とされており、定植直後の高温期に感染が集中しやすい点に注意が必要です。
耐病性の区分と品種の仕組み
ブロッコリーの根こぶ病耐性は、品種カタログ上で「CR(Clubroot Resistance)」「根こぶ病耐病性」「根こぶ病抵抗性」などの表記で示されます。国際基準であるHR(高度耐病性)・IR(中程度耐病性)の区分が記載されているケースもありますが、メーカーによって表記スタイルが異なるため、カタログの表記ルールを確認しながら読むことが重要です。
品種選びで見落としがちなのが、根こぶ病菌にはレース(病原型)が存在するという点です。日本国内では、田中・伊藤の分類法によりグループ1〜4に区分されており、各グループへの対応力は品種によって異なります。あるレースへの耐性を持つ品種であっても、圃場で優勢な別のレースに対しては発病することがあるため、栽培地域での発生レースの把握が品種選びの精度を左右します。
耐性の仕組みとしては、ヨーロッパナタネやカブなどの近縁種から導入された耐病性遺伝子(CRa、CRb、Crr1、Crr2など)の組み合わせにより制御されています。複数の耐病性遺伝子を持つ品種ほど、より多くのレースに対して耐性を示す傾向がありますが、すべてのレースに完全対応できる品種は現時点では存在しません。
代表的な耐病性ブロッコリーとしては、CRルイス(トヨタネ株式会社)やCR夢剛力(ナント種苗株式会社)などが知られています。品種選びに際しては、耐性の有無だけでなく対応レースも確認することが重要です。
歴史と豆知識
根こぶ病は世界各地のアブラナ科作物栽培地域で古くから記録されており、日本においても明治期から発生が報告されています。長らく防除が難しい病害として生産者を悩ませてきましたが、1990年代に入ってハクサイで耐病性品種(CR品種)の開発が本格化し、その後ブロッコリーへの耐性導入も進みました。
意外と知られていないのですが、根こぶ病菌の休眠胞子は種子には付着しますが、種子を介した伝染の主要経路は土壌伝染です。汚染された土壌が農機具や苗の移動に付着して新たな圃場に持ち込まれるケースが、感染拡大の大きな原因となっています。圃場に搬入する資材の管理や農機具の洗浄が、新規の圃場汚染を防ぐ上で重要な実践です。
また、ブロッコリーはハクサイやキャベツに比べて栽培期間が短く、根系の発達も異なるため、根こぶ病の症状が外見に現れにくい場合があります。花蕾の充実不足や生育遅れが出てから初めて根こぶ病に気づくケースもあり、圃場のモニタリングには注意が必要です。
耐病性の限界と注意点
根こぶ病耐性品種の導入は有効な手段ですが、耐性品種であれば完全に発病を防げるわけではありません。以下の点について正しく理解しておくことが大切です。
レースの変異による耐性崩壊のリスクがあります。CR品種を同一圃場で長年連作すると、耐性を打破するレースが選抜・増殖するケースが国内各地で報告されています。特定のCR品種を何年も続けて使わず、異なる耐病性遺伝子を持つ品種を組み合わせたローテーション(品種ローテーション)が、レース多様化への対応として注目されています。
土壌中の菌密度が極端に高い圃場では、耐性品種であっても発病することがあります。休眠胞子の密度が非常に高い条件下では、品種の防御機構が追いつかない場合があるため、土壌消毒や石灰資材による土壌pH矯正との組み合わせが重要です。
環境条件も耐性の発現に影響します。酸性・高温・多湿が重なる条件では、耐性品種においても発病リスクが上昇します。ブロッコリーの定植時期が高温期と重なる夏作では、特に注意が必要です。
防除のポイント
ここからが実際の栽培で差がつくところです。根こぶ病の防除は、耐性品種の導入を軸にしながらも、複数の対策を組み合わせた総合的なアプローチが不可欠です。
土壌pHの矯正は最も基本的かつ効果的な対策の一つです。根こぶ病菌は酸性土壌で活動が活発なため、石灰資材(消石灰、炭酸カルシウムなど)を施用して土壌pHを7.0〜7.2程度に引き上げることで、発病を大幅に抑制できるとされています。ただし、過剰な石灰施用はマンガンや鉄などの微量要素欠乏を引き起こすため、土壌診断に基づいた適正量の施用が基本です。
輪作はもう一つの基本的な耕種的防除です。アブラナ科以外の作物(イネ科、マメ科など)と3年以上のローテーションを組むことで、土壌中の休眠胞子密度を低下させることが期待できます。ただし、休眠胞子の寿命が非常に長いため、輪作だけで菌密度をゼロにすることは困難です。
排水管理の改善も発病リスクの低減に有効です。根こぶ病菌の遊走子は水中を移動して根に到達するため、高畝栽培や暗渠排水整備による排水改善が感染の抑制につながります。
化学的防除としては、フルスルファミド剤などの土壌処理剤が広く用いられています。定植前の施用が基本であり、発病後の治療効果は期待できません。
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
根こぶ病常発地域のブロッコリー産地では、CR品種の導入による改善効果を実感している生産者が多くいます。かつて根こぶ病で花蕾が充実せず歩留まりが悪かった圃場でも、CR品種への切り替えと土壌pH矯正を組み合わせたことで、安定した出荷が可能になったという声が聞かれます。
一方で、CR品種を長年使い続けた圃場で耐性崩壊が起きた事例も出ています。このような経験を持つ産地では、複数のCR品種をローテーションする管理方式を導入し、特定のレースが優勢化するリスクを分散する取り組みが広がっています。産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、CR品種の普及から十数年が経過した今、次のフェーズとして「耐性をどう維持するか」が新たな課題として浮上しています。
ブロッコリーはハクサイやキャベツより栽培期間が短いため、根こぶ病の被害が外見に出にくい反面、収穫期になってから初めて被害の深刻さに気づくケースがあります。定植後2〜3週間での根部の抜き取り調査を習慣化することで、早期発見・早期対応につなげることができます。
まとめ
根こぶ病は、アブラナ科作物の重大な土壌病害です。原因となる Plasmodiophora brassicae はフィトミキセアに属する原生生物で、土壌中に長期間生存する休眠胞子によって感染が繰り返されます。耐性品種(CR品種)の導入はブロッコリー栽培における根こぶ病対策の柱の一つですが、レースの多様性や環境条件によって効果が変動するため、品種の耐病性だけに頼らない総合的な防除体系の構築が重要です。
品種選びにあたっては、CR・HR・IR等の耐病性表記を確認するとともに、対応レースの情報も可能な限り把握しておくことがポイントです。土壌pH矯正、輪作、排水改善、品種ローテーション、適期の薬剤防除を組み合わせることで、長期的に安定したブロッコリー生産につなげることができます。
根こぶ病耐性を持つブロッコリー品種の一覧は、このページのタグが付いた品種ページからご確認いただけます。