ネコブセンチュウ(根こぶ線虫)は、糸状菌や細菌とは異なる「線虫」の一種で、植物の根に寄生して害を与える土壌病害虫です。主にトマトで問題になる種としては、サツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)、キタネコブセンチュウ(Meloidogyne hapla)、ジャワネコブセンチュウ(Meloidogyne javanica)などが知られており、日本の施設トマト産地では特にサツマイモネコブセンチュウが広く問題となっています。
感染した根には「根こぶ(ガル)」と呼ばれるコブ状の肥大組織が形成されます。これがネコブセンチュウの名称の由来です。このコブの形成により根が正常な水分・養分の吸収機能を失い、株全体の生育が抑制されます。感染が進行すると著しい萎凋・生育不良・収量低下が起こり、重篤な場合は株が枯死することもあります。
ネコブセンチュウは土壌温度20〜30℃(特に25〜28℃)を好み、高温の施設圃場で活発に増殖します。砂質土壌や水はけの良い圃場では移動しやすく、被害が広がりやすい傾向があります。
意外と知られていないのですが、ネコブセンチュウは「病原菌」ではなく「線虫(動物)」であるため、殺菌剤は全く効果がありません。萎凋病などの土壌病害と混同して殺菌剤だけで対処しようとしても、ネコブセンチュウには効果がないことを理解しておくことが重要です。
ネコブセンチュウ耐性の区分
ネコブセンチュウへの耐性(抵抗性)は、カタログ上では「Mi」または「N」(Ne、Nematode)の略号で表記されることが多いです。「Mi」はネコブセンチュウへの抵抗性遺伝子(Mi遺伝子)を持つことを示しています。
Mi遺伝子はトマトの野生種(Solanum peruvianum等)に由来し、育種により栽培品種に導入されたものです。主にサツマイモネコブセンチュウ(Meloidogyne incognita)、ジャワネコブセンチュウ(Meloidogyne javanica)、アレナリアネコブセンチュウ(Meloidogyne arenaria)の3種に対して有効です。
品種選びで見落としがちな重要なポイントがあります。Mi遺伝子の抵抗性は高温(土壌温度28℃以上)で著しく低下します。ミニトマトの施設栽培では夏季の地温が30℃を超えることも珍しくなく、この条件下では耐性品種であっても被害が発生するリスクがあります。
ネコブセンチュウの発生状況と対策の歴史
ネコブセンチュウは日本の施設トマト産地で長年にわたって問題となってきた土壌病害虫です。施設栽培の連作圃場では土壌中の線虫密度が年々高まる傾向があり、長期的な問題として産地に定着することがあります。
かつてはクロルピクリン等の土壌くん蒸剤による防除が主体でしたが、環境への負荷や作業者の安全性への懸念から、代替手段として耐性品種への関心が高まりました。Mi遺伝子を活用したネコブセンチュウ耐性品種の育種は世界的に1970〜80年代から進められており、日本でも耐性品種が普及してきました。
ミニトマトの施設栽培では、促成長期作や周年栽培の産地が多く、連作年数が長くなるほど土壌中の線虫密度が高まりやすい状況があります。台木接ぎ木栽培と耐性品種の組み合わせが普及してきた背景には、このような産地の実情があります。
耐性の限界と注意点
ネコブセンチュウ耐性品種の利用において最も重要な注意点は、高温下での耐性低下です。
Mi遺伝子による耐性は土壌温度28℃以上になると機能が低下します。夏季の施設内では地温が30℃を超えることも珍しくなく、この条件下では耐性品種であっても発病するリスクが高まります。ミニトマトは促成長期栽培が多いため、冬〜春は耐性が機能しやすい一方で、秋の定植直後から初冬にかけての高温期や、抑制作型の夏の高温期には注意が必要です。
産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、土壌温度が高くなりやすい砂質圃場や暖地の施設では、耐性品種だけで対応しようとすることには限界があります。
次に種の問題があります。Mi遺伝子が主に対応しているのはサツマイモネコブセンチュウ・ジャワネコブセンチュウ・アレナリアネコブセンチュウの3種ですが、キタネコブセンチュウ(Meloidogyne hapla)には効果がない場合があります。発生している線虫の種を把握することが、耐性品種選択の精度を高めます。
また、ネコブセンチュウの耐性は萎凋病・半身萎凋病・根腐萎凋病などの土壌病害耐病性とは独立しています。複数の土壌問題が発生している圃場では、それぞれへの対応をカタログで個別に確認することが必要です。
防除のポイント
ネコブセンチュウの防除は、耐性品種の利用だけに頼らず、土壌管理・耕種的防除・化学的防除を組み合わせた総合防除の考え方が重要です。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。高温期の土壌温度管理が防除において大きな役割を果たします。マルチングによる地温抑制、適切な灌水管理による地温上昇の緩和が、Mi遺伝子の機能維持と線虫密度の管理に有効です。
耕種的防除:
- 輪作: ネコブセンチュウの宿主でない作物(イネ科作物など)との輪作により、土壌中の線虫密度を低下させることが期待できます
- 接ぎ木栽培: ネコブセンチュウ耐性を持つ台木への接ぎ木は、品種の耐性をさらに強化する有効な手段です。台木のMi遺伝子の有無を確認した上で選択することが重要です
- 収穫後の根処理: 収穫後に根を圃場から除去し、圃場外で適切に処理することで次作への線虫密度を抑制します
- 太陽熱消毒: 夏季の高温期に圃場を透明マルチで覆い、土壌を高温(50〜60℃以上)に保つことでネコブセンチュウを死滅させる方法です。薬剤を使わない環境負荷の低い手段として活用されています
化学的防除:
- ネコブセンチュウに対して登録のある殺線虫剤・土壌くん蒸剤の使用が有効です。定植前の処理が基本となります
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
施設ミニトマト産地での経験から、「耐性品種を選んだのに夏場に線虫被害が出た」という事例が報告されています。高温下でのMi遺伝子の機能低下が原因であることが多く、その後は太陽熱消毒や土壌くん蒸を組み合わせる対策に切り替えた産地があります。
接ぎ木台木の活用も広がっています。Mi遺伝子を持つ台木にミニトマト品種を接ぐことで、穂木と台木の両面からネコブセンチュウに対処する体制を整える生産者が増えています。ただし、台木のMi遺伝子も高温下では機能が低下するため、土壌温度管理との組み合わせが重要です。
ミニトマトの長期作産地では、太陽熱消毒の実施が夏季の作付け間隔に合わせた慣行として定着している地域もあります。薬剤コストの削減と環境負荷の低減を同時に実現できる手段として評価されています。
まとめ
ネコブセンチュウ(サツマイモネコブセンチュウ等)は、根に「根こぶ」を形成する土壌病害虫です。病原菌(萎凋病・半身萎凋病・根腐萎凋病)とは異なる生物(線虫)であるため、防除方法・耐性品種の選択方法が異なります。
ミニトマトの施設連作圃場では線虫密度が蓄積しやすく、耐性品種の活用が有効な対策の一つとなっています。品種に組み込まれているMi遺伝子は土壌温度28℃以上で機能が著しく低下するという制約があるため、高温期の栽培や暖地の生産では、耐性品種の利用に加えて土壌くん蒸・太陽熱消毒・輪作・接ぎ木栽培を組み合わせた総合防除体系が求められます。
ネコブセンチュウ耐性を持つミニトマトの品種一覧は、ミニトマトの品種ページからご確認いただけます。