葉かび病は、糸状菌のPassalora fulva(旧称: Cladosporium fulvum)によって引き起こされるトマト特有の病害です。施設栽培(ハウス栽培)で特に問題になる病害として知られており、露地栽培ではほとんど見られません。ミニトマトは施設での長期栽培が多く、葉かび病が発生しやすい環境条件と重なりやすいため、生産者が意識して管理する必要がある病害のひとつです。
主な症状は、葉の表面に淡黄色から黄緑色の不整形な病斑が形成されることです。葉の裏面には灰緑色〜暗灰色のビロード状のかびが密生し、これが葉かび病の診断上の特徴になっています。病状が進行すると病斑が拡大・融合し、罹病葉が早期に落葉します。葉が減少することで光合成能力が低下し、果実の肥大不良や品質低下を引き起こします。
葉かび病菌は気温18〜25℃、相対湿度85%以上の高湿度条件で特に活発に胞子を形成・飛散させます。ミニトマトの施設栽培では、外気温が低い時期でも換気が不十分だと湿度が高まりやすく、葉かび病が発生しやすい環境になります。胞子は風や作業者の動きによって株間を伝播し、施設内で急速に蔓延する可能性があります。
葉かび病菌には複数のレース(系統)が存在します。現在知られているレースはCf(クラドスポリウム抵抗性)レースとして複数あり、国内では主にCf9が問題となっています。
葉かび病耐病性の区分とCFの意味
大玉トマトのカタログで目にする「CF桃太郎」シリーズの「CF」は、旧学名Cladosporium fulvumの頭文字に由来する葉かび病耐病性を示す略号です。品種名にCFが付いている品種は、葉かび病への耐病性を持つことを示しています。ミニトマト品種のカタログにも同様の略号が使われているものがあります。
国際的な耐病性表記の慣行では「Cf-9」のようにレース番号が記載されます。カタログによって表記方法が異なりますが、「Cf(1-9)」のように対応しているレースの範囲を表記するメーカーもあります。
品種選びで見落としがちなのが、このレース区分の確認です。より新しいレースへの対応状況は品種によって異なり、カタログの耐病性表記を確認する習慣が重要です。施設栽培で同一品種を長期間使い続ける場合は、その品種の葉かび病耐病性スペクトルが産地の発生レースに対応しているかを定期的に確認することが望ましいです。
葉かび病耐病性品種の歴史
葉かび病は施設トマト・ミニトマト栽培の普及と歩みを共にしてきた病害です。1960〜70年代の施設栽培の急速な拡大とともに問題化し、当初は薬剤防除に頼るしかありませんでしたが、菌の定期的な薬剤感受性の低下(抵抗性の獲得)が課題となりました。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。耐病性品種の育種が進む中で、CF品種の開発・普及が施設産地での葉かび病対策を大きく前進させました。これらの品種は葉かび病耐病性だけでなく、複数の病害への耐病性と高い収量性を両立した品種として定着しています。
葉かび病菌のレース変異は継続的な課題であり、新しいレースへの対応を盛り込んだ育種改良が各メーカーで継続されています。意外と知られていないのですが、葉かび病菌はトマト・ミニトマト以外の植物にはほとんど感染しない、非常に宿主特異性の高い病原菌です。このため、輪作でトマト・ミニトマト以外の作物に切り替えることで、圃場内の菌密度を低下させることが期待できます。
耐病性の限界と注意点
葉かび病耐病性品種を選択する際には、以下の点に注意が必要です。
レースの多様性が最大の課題です。現在確認されているレースは複数あり、新しいレースが出現する可能性は継続的に存在します。ある品種がCf9対応であっても、より新しいレースには感受性を持つ可能性があります。
高温・多湿の環境条件が続く場合は、耐病性品種であっても発病リスクが高まることがあります。葉かび病菌は18〜25℃、相対湿度85%以上という条件で特に活発になるため、ミニトマトの施設栽培でこれらの環境条件が長期間続く場合は、耐病性品種の利用だけでなく環境管理(換気・除湿)も欠かせません。
ミニトマトの施設長期栽培では、着葉数が多く葉が密に繁っている状態になりやすいため、通気性の管理が葉かび病予防に重要な役割を果たします。適切な摘葉管理と株間管理が耐病性品種の効果を引き出す前提条件です。
防除のポイント
葉かび病の防除において最も重要なのは、施設内の環境管理です。菌の増殖に適した高湿度条件を防ぐための換気・通風が基本的な対策になります。
環境管理(施設内):
- 換気の徹底: 天窓・サイドカーテンの適切な開閉により、施設内の湿度を低下させることが最も基本的な防除です。葉の表面が結露するような状況を避けることが重要です
- ミニトマト特有の葉の密度管理: 施設長期栽培では下葉が密着して通気が悪くなりがちです。摘葉の頻度と範囲を適切に設定して通気性を維持することが葉かび病の発生抑制につながります
- 灌水管理: 朝の早い時間帯に灌水を行うことで、夜間の葉面湿度を低下させることが有効です。夕方遅い灌水は施設内湿度の上昇を招きやすいため注意が必要です
耕種的防除:
- 発病した下葉の除去(摘葉): 罹病葉は胞子の供給源となるため、速やかに除去・施設外で処理します
- 輪作: ミニトマト以外の作物への切り替えにより、圃場内の菌密度低下が期待できます
化学的防除:
- 葉かび病の登録農薬による予防散布が有効です。発病初期からの散布が特に効果的で、薬剤ローテーションを行って薬剤耐性菌の出現を防ぐことが重要です
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
施設ミニトマト産地での葉かび病対策として、葉かび病耐病性品種への切り替えが広く定着しています。耐病性品種の普及によって薬剤散布回数を削減でき、労力削減と農薬コスト低下につながったという声が産地から聞かれます。ミニトマトは単位面積あたりの着果数が多く、作業量が大きいため、病害管理の省力化が生産性向上に直結します。
一方、施設の老朽化や高密度栽培が続く圃場では、耐病性品種を使っていても葉かび病が発生するケースがあります。そのような現場では換気設備の改善や栽植密度の見直しと組み合わせた対策が求められています。
産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、ミニトマトの長期栽培では夏の高温期が過ぎて秋冬の高湿度期に入ると葉かび病リスクが高まる傾向があります。作型の変わり目で早めに換気体制を整えることが、発生予防の実践的なポイントです。
まとめ
葉かび病は施設栽培(ハウス栽培)特有の病害で、Passalora fulva(旧称: Cladosporium fulvum)が高湿度条件下で発生します。葉かび病耐病性品種は「CF」などの略号でカタログに示されており、施設でミニトマトを栽培する生産者にとっては確認が特に重要な耐病性の一つです。
品種選びの際はCfレースへの対応状況をカタログで確認し、環境管理(換気・除湿)・摘葉・適切な薬剤散布を組み合わせた総合防除を行うことが、被害を最小化するポイントです。ミニトマトの施設長期栽培では、品種の耐病性を活かすための環境管理が防除の出発点になります。
葉かび病耐病性を持つミニトマト品種の詳細については、ミニトマトの品種一覧からご確認ください。