白斑病耐性ハクサイ
白斑病とは
白斑病は、糸状菌(かび)の一種である Cercosporella brassicae(シュードセルコスポレラ属とする分類もあります)によって引き起こされるハクサイの病害です。アブラナ科作物に広く発生する病害であり、ハクサイのほか、キャベツ、カブ、コマツナなどでも被害が見られます。
主な症状としては、葉に直径5〜15mm程度の円形〜不整形の白っぽい病斑が多数形成されます。病斑の中央部は灰白色〜白色で、周縁部はやや暗色を帯びることがあります。この白い病斑の外観が、病名の由来です。
感染が進行すると、病斑が葉全体に広がり、外葉から順に枯れ上がっていきます。外葉の病斑が著しい場合は、収穫時に病斑のある外葉を除去する必要があり、調製作業の手間が増加するとともに、可販部分の歩留まりが低下します。重症化した場合は、結球の外観品質が著しく損なわれ、出荷が困難になることもあります。
白斑病は、気温15〜25℃の比較的広い温度範囲で発生し、特に降雨が多く多湿な条件で発生が助長されます。秋の長雨や台風の後に急速に蔓延するケースが多く、秋まき・冬どりのハクサイ栽培においては注意が必要な病害の一つです。
白斑病耐性の区分
ハクサイにおける白斑病耐性は、品種によって程度が異なります。種苗メーカーのカタログでは、「白斑病に強い」「白斑病耐病性」などの表記で耐性の有無が示されていますが、HR(高度耐病性)・IR(中程度耐病性)のような国際的な統一基準で厳密に区分されているケースは現時点では一般的ではありません。
品種選びで見落としがちなのが、この耐病性表記の意味合いの幅です。「白斑病に強い」と記載されていても、その強さの程度は品種によって異なります。完全に発病しないわけではなく、発病しても病斑の拡大が遅い、または外葉にとどまり結球部への影響が小さいという意味で「耐性がある」と評価されている場合もあります。
白斑病菌には生理的な系統差が存在する可能性が指摘されていますが、べと病菌のように明確なレース分化が確認されているわけではありません。ただし、地域や圃場によって白斑病の発生程度が異なることから、圃場の環境条件と菌の分布状況も品種の耐病性発現に影響を与えると考えられます。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。耐病性品種であっても、高密度で菌が蔓延している圃場では発病する可能性があります。品種の耐病性は、あくまで防除体系の一要素として位置づけ、他の防除手段と組み合わせて利用することが大切です。
歴史と豆知識
白斑病は、ハクサイをはじめとするアブラナ科作物の栽培が盛んな地域で古くから知られている病害です。日本においても、ハクサイの秋冬栽培が一般化するとともに、白斑病の発生が各地で報告されるようになりました。
ハクサイの品種改良の歴史の中で、白斑病耐性は根こぶ病や軟腐病ほど育種上の優先度が高くなかった時期がありました。しかし、連作圃場での白斑病の多発や、暖秋による発生期間の長期化が問題となるにつれ、耐病性品種への関心が高まっています。
豆知識として、白斑病菌は感染した残渣(作物の茎葉のくず)の上で越冬・越夏し、次作の感染源となります。残渣をすき込んだ圃場では、分解が不十分な場合に翌作の白斑病リスクが高まることがあります。収穫後の残渣処理が、白斑病の発生密度を低下させるために有効な対策の一つです。
また、白斑病はハクサイ以外のアブラナ科作物にも感染するため、アブラナ科の連作が白斑病菌の蓄積を助長する要因になります。輪作体系の中で、アブラナ科の作付け頻度を管理することが、圃場レベルでの白斑病対策として重要です。
耐病性の限界と注意点
白斑病耐性品種を導入しても、それだけで完全に白斑病を防げるわけではありません。以下の点に注意が必要です。
環境条件による発病リスクの変動があります。秋の長雨が続く年や、台風の通過による葉の損傷が多い年は、耐病性品種であっても発病リスクが高まります。葉に傷がつくと、そこから菌が侵入しやすくなるため、風害後は特に注意が必要です。
連作による菌密度の上昇も見逃せません。アブラナ科の連作圃場では、白斑病菌の密度が徐々に高まり、耐病性品種でも発病するケースが増えることがあります。前作の残渣が十分に分解されないまま次作に入ると、感染源がそのまま引き継がれます。
他の病害との複合発生にも注意が必要です。白斑病の発生条件は、べと病や軟腐病の発生条件と重なる部分があるため、複数の病害が同時に発生する場合があります。白斑病耐性品種であっても、べと病や軟腐病への耐性が十分でない場合は、これらの病害への対策が別途必要です。
品種の耐病性だけに頼るのではなく、輪作・残渣処理・排水管理・適期防除を組み合わせた総合的な防除体系を構築することが重要です。
防除のポイント
白斑病の防除は、耐病性品種の利用を軸に、耕種的防除と化学的防除を組み合わせて行います。
耕種的防除として最も基本的なのは輪作です。アブラナ科作物の連作を避け、イネ科作物やマメ科作物と2〜3年以上のローテーションを組むことで、土壌中の白斑病菌密度を低下させることが期待できます。
残渣処理も重要な防除手段です。収穫後のハクサイの外葉や茎の残渣は白斑病菌の越冬場所となるため、速やかにすき込んで分解を促進するか、圃場外に搬出して処分します。残渣の分解を促進するために、微生物資材の活用も一つの方法です。
排水管理は、白斑病の発生を抑制するために有効です。多湿条件が白斑病菌の胞子の飛散・感染を助長するため、圃場の排水性を高めることが発病リスクの軽減につながります。
化学的防除については、ハクサイに登録のある殺菌剤を発生初期に散布することが効果的です。予防的な散布が基本であり、発病後に治療的に使用しても効果は限定的です。散布タイミングは、発生が予想される時期(秋雨の時期、台風通過後)に合わせて計画します。
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
ハクサイ産地では、白斑病対策に関してさまざまな実践事例が蓄積されています。
秋の長雨が続く年に白斑病が多発した産地では、耐病性品種への切り替えと併せて栽植密度の適正化を行い、株間の通気性を改善したところ、発病率が低下したという報告があります。品種の耐病性と栽培環境の改善の相乗効果が発揮された事例です。
アブラナ科の連作圃場で白斑病が常発していたケースでは、輪作体系の見直しと残渣のすき込み時期の調整により、白斑病の発生密度が顕著に低下した事例も報告されています。特に、残渣すき込み後に十分な期間をおいてから次作に入ることが効果的であったとされています。
栽培現場では、白斑病の初期症状を見逃して対応が遅れるケースも少なくありません。白斑病の病斑は小さいうちは目立ちにくく、気づいた時にはすでに蔓延しているということがあります。圃場の定期的な巡回と、初期病斑の早期発見が、防除の成功率を高める鍵です。
まとめ
白斑病は、多湿条件で発生するハクサイの重要病害であり、外葉の病斑による調製歩留まりの低下と外観品質の悪化が問題になります。耐病性品種の導入は有効な対策の一つですが、耐病性の程度は品種によって異なり、環境条件や菌密度によって効果が変動する可能性があります。
品種選びにあたっては、白斑病耐性の表記を確認するとともに、べと病や軟腐病など他の主要病害への耐性もあわせて検討することがポイントです。輪作、残渣処理、排水管理、適期の薬剤防除を組み合わせた総合的な防除体系を構築することで、安定したハクサイ生産につなげることができます。