トマト黄化葉巻病耐性大玉トマト
トマト黄化葉巻病とは
トマト黄化葉巻病は、トマト黄化葉巻ウイルス(Tomato yellow leaf curl virus、略号: TYLCV)によって引き起こされる、大玉トマト栽培において特に警戒が求められるウイルス病の一つです。
感染すると、新葉の葉縁が上方に巻き上がり、葉全体が黄化・縮小します。症状が進行すると株全体の生育が著しく抑制され、着果数の減少・果実の肥大不良が起きます。大玉トマトの場合、果重が要求されるため、生育抑制の影響は収量に直結します。発症した株は回復が難しく、発見した時点で防除対策を講じても収量の回復は見込みにくいのが実情です。
主な感染経路は、タバコナジラミ(Bemisia tabaci)による媒介です。タバコナジラミはTYLCVを体内に取り込んだのち、健全株に吸汁することでウイルスを移します。一度感染した個体が伝染源となり、施設内で急速に蔓延するケースがあります。特に、夏秋の高温期はタバコナジラミの密度が上昇しやすく、TYLCV感染リスクが高まります。
国内では1990年代後半から被害が拡大しており、九州・四国から始まり現在では全国の施設トマト産地に分布が広がっています。
TYLCV耐病性の区分
種苗メーカーのカタログでは、TYLCV耐病性は以下の区分で表記されます。
- HR(High Resistance / 高度耐病性): 通常の病原体密度の条件下で、発病をほぼ抑制できる高いレベルの耐性を示します
- IR(Intermediate Resistance / 中程度耐病性): 感受性品種と比べて発病が抑制されますが、ウイルス密度が高い条件や特定系統では発病する可能性があります
TYLCVには複数の系統が存在します。国内で主に問題になるのはイスラエル系統(TYLCV-IL)とマイルド系統(TYLCV-Mld)で、品種によってどの系統に対応しているかが異なります。カタログに「TYLCV HR」とあっても、対応系統によっては効果が限られるケースがあります。地域の農業試験場や農業普及指導センターへの問い合わせで、現地の発生系統を確認しておくことが品種選定の精度を高めます。
品種選びで見落としがちなのが、このHR・IRとレース区分の組み合わせです。同じ「TYLCV耐病性品種」でも、耐病性のレベルと対応する系統の幅には品種間で差があります。カタログの表記をそのまま鵜呑みにせず、栽培地域で優勢な系統への対応状況を確認することが重要です。
歴史と豆知識
TYLCVが日本で初めて確認されたのは1990年代初頭で、九州・四国の施設トマト産地から報告が相次ぎました。当初は九州・四国を中心に被害が報告されていましたが、タバコナジラミの分布拡大とともに、現在では東北・北海道を除く多くの産地で発生が確認されています。
耐病性品種の育種は1990年代後半から本格化し、2000年代に入ると各種苗メーカーから続々とTYLCV耐病性を持つ大玉トマト品種が登場しました。タキイ種苗の「桃太郎ピース」「桃太郎ホープ」、サカタのタネの「麗旬」「麗妃」、ハウスパルトなどが耐病性品種の先駆けとして広く産地に普及しました。
意外と知られていないのですが、TYLCVに対する耐病性遺伝子は複数の型が存在します。Ty-1(染色体6番由来)、Ty-2(染色体11番由来)、Ty-3(Ty-1と同一遺伝子座のアレル)などが代表的です。近年はこれらの遺伝子を複数組み合わせ(スタック)した品種も登場しており、耐病性の安定性向上が図られています。
耐病性の限界と注意点
TYLCV耐病性品種を導入すれば安全というわけではありません。以下の点を理解しておくことが重要です。
タバコナジラミの密度が著しく高い条件下では、HR品種であっても発病することがあります。施設内のタバコナジラミ密度の管理は、耐病性品種の効果を最大化するための重要な前提条件です。
新系統の出現リスクも見逃せません。TYLCVは変異しやすいウイルスであり、既存の耐病性品種が対応していない系統が出現する可能性があります。国内では現時点での新系統報告は限定的ですが、海外産地での発生情報には継続的な注意が必要です。
また、TYLCVとは別に、「トマト黄化葉巻ウイルス」と症状が似た別のウイルスが混在している地域もあります。症状が出た場合は、専門機関による診断を行い、原因となっているウイルスを特定することが適切な対処につながります。
産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、耐病性品種への過度な依存はリスクの一因になります。品種の選定とともに、タバコナジラミの防除を含む総合的な管理体制を維持することが長期的な安定生産の基盤です。
防除のポイント
TYLCVの防除は、耐病性品種の利用を軸にしながら、タバコナジラミの密度管理と侵入防止を組み合わせる総合的な体制が基本です。
物理的防除:
施設入口や開口部への防虫ネット(0.4mm目以下)の設置が効果的です。タバコナジラミの侵入を物理的に遮断することで、感染リスクを大幅に低減できます。また、紫外線(UV)カットフィルムの使用がタバコナジラミの誘引を抑制する効果があるとの報告があります。
耕種的防除:
定植前の苗の健全性確認は基本中の基本です。育苗段階での感染は圃場全体への蔓延につながるため、苗床での防虫ネット使用や徹底した防除が求められます。発症株は早期に除去し、ビニール袋等に密封して圃場外に搬出します。
化学的防除:
タバコナジラミに登録のある殺虫剤を活用した予防散布も有効な対策です。薬剤抵抗性を回避するため、系統の異なる薬剤のローテーション散布が推奨されます。
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
西南暖地の施設トマト産地では、TYLCV耐病性品種の導入が産地維持の前提条件として定着しています。
「TYLCV耐病性がない品種は、今の産地環境では選択肢に入らない」という声が多く聞かれます。一方で、耐病性品種を導入したにもかかわらず発病が見られたケースでは、育苗段階での感染や、防虫ネットの破れからのタバコナジラミ侵入が原因であることが多いとされています。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。耐病性品種の選定だけでなく、施設の開口部管理・育苗時の防虫・定期的な巡回による早期発見という「3点セット」を維持できている産地が、安定して高い成果を出しています。品種の耐病性は完全な防護壁ではなく、適切な管理体制と組み合わせて初めて機能します。
比較的TYLCVの発生が少ない地域でも、近年はタバコナジラミの分布が拡大傾向にあり、「今まで大丈夫だったから」という油断は禁物です。TYLCV耐病性品種への切り替えと防除体制の見直しを、栽培計画の中に組み込んでおくことが大切です。
まとめ
トマト黄化葉巻ウイルス(TYLCV)は、タバコナジラミが媒介する大玉トマトの重要なウイルス病で、感染すると生育・収量・品質のすべてに重大な影響をもたらします。国内では1990年代後半から分布が拡大し、現在では多くの産地で防除対策が不可欠となっています。
品種選定では、HR・IRの区分と対応系統(TYLCV-IL・TYLCV-Mldなど)をカタログで確認し、栽培地域の発生状況に合った品種を選ぶことがポイントです。Ty-1・Ty-2・Ty-3といった複数の耐病性遺伝子を持つ品種は耐病性の安定性が高く、発生リスクの高い産地での選択肢として有効です。
耐病性品種の導入とともに、タバコナジラミの防除・施設の開口部管理・育苗段階の防虫対策を組み合わせた総合防除体制を整えることが、安定した大玉トマト生産の基盤となります。TYLCV耐病性を持つ大玉トマト品種の詳細は、品種一覧ページからご確認いただけます。