半身萎凋病耐性大玉トマト
半身萎凋病とは
半身萎凋病は、糸状菌のVerticillium dahliae(バーティシリウム・ダーリエ菌)が引き起こす土壌伝染性病害です。名称が似ているため萎凋病(Fusarium oxysporum f. sp. lycopersiciによる)と混同されることがありますが、病原菌はまったく異なり、別の病害として扱う必要があります。
半身萎凋病の特徴的な症状は、その名の通り株の片側(半身)だけが萎凋する「半身性の萎れ」です。株の一方の側の葉が先にしおれ・黄化し、もう一方の側はしばらく正常を保ちます。これはVerticillium菌が道管内で部分的に増殖するためで、全体が均一に枯れる萎凋病とは症状の現れ方が異なります。
茎を縦断すると、道管部が褐変しているのが確認できる点は萎凋病と共通していますが、変色の範囲や程度が異なることが多く、経験のある農業者や農業技術員による現場判断や、必要に応じた病原菌の同定が正確な診断のために重要です。
感染は根の傷口や細根から始まり、道管を通じて植物体内に侵入します。Verticillium dahliaeは比較的低温(15〜25℃前後)で活発に増殖する特性があり、春先の定植後や秋の気温が下がる時期に症状が顕在化することが多い傾向があります。高温期には菌の活動が抑制されて症状が一時的に軽減することもあるため、「時期によって症状が変わる」と感じられることがあります。
半身萎凋病耐病性の区分
種苗メーカーのカタログでは、半身萎凋病への耐病性(または抵抗性)は「Va」または「Vd」の略号で表記されるのが国際的な慣行です。
- Va: Verticillium albo-atrumへの耐病性
- Vd: Verticillium dahliaeへの耐病性
日本のトマト産地で主に問題となっているのはVerticillium dahliae(Vd)です。カタログで「半身萎凋病耐病性」と記載されている場合は、Vdへの対応を確認することが重要です。
HR(高度耐病性)とIR(中程度耐病性)の区分は萎凋病と同様の考え方が適用されます。品種によって耐病性の程度に差があるため、耐病性レベルと合わせてレース・系統の確認もカタログで行うことが望ましいです。
大玉トマトで半身萎凋病耐病性を持つ品種は、ミノリスに登録された146品種中約71品種(約49%)です。萎凋病耐病性を持つ品種(約61%)よりも比率は低く、品種選びの際に意識的に確認する必要があります。タキイ種苗の「CF桃太郎J」「桃太郎ワンダー」、サカタのタネの「麗妃」、ハウス桃太郎シリーズなどが代表的な耐病性品種として知られています。
半身萎凋病の発生状況と経緯
半身萎凋病は日本各地の施設トマト産地で発生が確認されており、特に連作が行われる施設圃場での被害が問題になっています。Verticillium dahliaeは厚膜胞子(微小菌核)を形成して土壌中で長期間生存することができ、一度圃場に定着すると根絶が難しい病害です。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。半身萎凋病が萎凋病と異なる点として、比較的低温(15〜25℃)を好む特性があります。このため、夏季高温期には症状が目立たなくても、秋作や春作の定植初期に突然症状が現れるケースがあります。「前作は問題なかったのに今作は株が枯れていく」という状況の背景に半身萎凋病が潜んでいることがあります。
意外と知られていないのですが、Verticillium dahliaeはトマト以外にもナス、ジャガイモ、ピーマン、イチゴ、綿など、非常に広い宿主範囲を持ちます。トマト栽培後に他のナス科作物を連作すると、土壌中の菌密度が下がらないケースがあるため、輪作の組み合わせには注意が必要です。
耐病性の限界と注意点
半身萎凋病耐病性品種を導入する際には、萎凋病の場合と同様にいくつかの注意点を理解しておく必要があります。
まず重要なのは、半身萎凋病(Verticillium dahliae)と萎凋病(Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici)と根腐萎凋病(Fusarium oxysporum f. sp. radicis-lycopersici)は、それぞれ異なる病原菌による別の病害だという点です。萎凋病に対するHR品種であっても、半身萎凋病には感受性を持つ場合があります。複合感染が起きることもあるため、複数の耐病性を持つ品種を選択するか、各病害への耐病性を個別に確認することが重要です。
次に、菌密度が高い圃場では耐病性品種であっても完全に発病を防げないことがあります。特に長年連作が続いた圃場では、土壌くん蒸との組み合わせが有効です。
また、半身萎凋病の病徴は萎凋病と類似しているため、正確な診断なしに品種の耐病性だけで対応しようとすると、実際の病原菌が異なっていて効果が出ないケースがあります。産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、どの病害が圃場で問題になっているかを農業普及指導センター等に相談しながら品種を選ぶことが、確実な対策につながります。
防除のポイント
半身萎凋病の防除には、耐病性品種の利用を軸に、耕種的防除・化学的防除・土壌管理を組み合わせた総合的な取り組みが必要です。
耕種的防除:
- 輪作の設計: Verticillium dahliaeは幅広い宿主を持つため、輪作する作物の選択には注意が必要です。イネ科作物(水稲、コーンなど)との組み合わせが効果的とされています。ナス科作物同士の連作は避けることが基本です
- 接ぎ木栽培: 半身萎凋病に強い台木を選択することで、品種の耐病性をさらに補強できます。ただし、台木も半身萎凋病耐病性を確認した上で選択することが重要です
- 定植時期と気温の管理: 発病しやすい低温期(15〜25℃)の前後に定植が集中する場合は、より注意が必要です。定植後の地温管理も発病リスクに影響します
- 根域の管理: 細根への傷がない健全な苗の定植、適切な灌水管理により根への菌の侵入機会を減らすことが有効です
化学的防除:
- 定植前の土壌くん蒸処理(クロルピクリン等)による菌密度の低下
- 定植時・生育中の適切な薬剤利用(登録農薬を確認の上で使用)
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
半身萎凋病はしばしば萎凋病と混同されるため、「萎凋病の耐病性品種を入れたのに株が枯れた」という声が産地から聞こえることがあります。そのような場合、実際には半身萎凋病や根腐萎凋病が原因であったというケースが少なくありません。
施設トマト産地での取り組みとして、複数の土壌病害への耐病性をまとめて確認できる品種(萎凋病・半身萎凋病・根腐萎凋病の3つすべてに対応している品種)を選択する傾向が強まっています。カタログ上で各病害の耐病性略号を一つひとつ確認する習慣が、現場での品種選びの質を高めています。
また、土壌診断の活用も進んでいます。病害の発生原因を特定するために土壌検診を依頼し、どの病原菌が優勢かを把握した上で品種選択や土壌くん蒸の計画を立てる産地が増えています。耐病性品種の効果を最大化するためには、このような現場での診断と連携した取り組みが有効です。
まとめ
半身萎凋病はVerticillium dahliaeが引き起こす土壌伝染性病害で、萎凋病(Fusarium菌)とは病原菌が異なるまったく別の病害です。株の片側から萎れが始まる「半身性」の症状が特徴で、比較的低温(15〜25℃)で活発に発生します。
大玉トマトでは登録146品種中約71品種(約49%)が耐病性を持ちます。品種選びの際は、萎凋病の耐病性(Fol)と半身萎凋病の耐病性(Vd)を区別してカタログを確認することが重要です。二つの病害への耐病性は別々に記載されているため、一方があっても他方の対策が十分でないケースがあります。輪作・接ぎ木・土壌くん蒸との組み合わせで総合的な防除体系を整えることが、安定した大玉トマト生産の基盤となります。
半身萎凋病耐病性を持つ大玉トマトの品種一覧は、ミノリスの品種検索からご確認いただけます。