斑点病耐性大玉トマト
斑点病とは
斑点病は、糸状菌のStemphylium spp.(ステンフィリウム属菌)によって引き起こされるトマトの病害です。施設栽培・露地栽培の両方で発生しますが、施設栽培の普及した産地で特に問題になることが多く、下葉から上位葉へと被害が拡大する病害として知られています。
主な症状は、葉に形成される不整形〜円形の病斑です。初期は黄色いハローを伴う小さな斑点として現れ、拡大すると褐色〜暗褐色の壊死病斑になります。病斑の中心部が灰色〜白色になることもあります。病状が進行すると葉全体が黄化・落葉し、光合成能力の低下を招きます。果実には通常直接感染しませんが、早期落葉により果実が日射に直接さらされ、日焼け果の発生につながることがあります。
発生条件としては、温度20〜25℃前後の比較的温暖な条件と、高湿度・葉面結露が要因となります。施設内で換気が不十分な状態が続くと、発生リスクが高まります。また、葉かび病と同様に施設内での胞子飛散による感染拡大が問題になります。
意外と知られていないのですが、斑点病はその症状がマグネシウム欠乏症などの生理障害と混同されることがあります。正確な診断のためには、症状の現れ方や発生パターン、罹病葉の検鏡(胞子の確認)が参考になります。
斑点病耐病性の区分
斑点病(Stemphylium spp.)の耐病性は、カタログ上では「St」または「Ss」の略号で表記されることがあります。ただし、耐病性の表記方式は種苗メーカーによって異なるため、カタログの耐病性表の凡例を必ず確認することが重要です。
HR(高度耐病性)・IR(中程度耐病性)の区分は、他の病害耐病性と同様の概念が適用されます。斑点病耐病性の程度は品種によって差があり、「耐病性あり」という記載でも実際の耐病性レベルは品種間で異なります。
大玉トマトで斑点病耐病性を持つ品種は、ミノリスに登録された146品種中約67品種(約46%)です。萎凋病耐病性(約61%)に次いで比較的多くの品種が耐病性を持っており、施設栽培に対応した品種群では斑点病への耐病性を持つものが多い傾向があります。タキイ種苗の「CF桃太郎J」、サカタのタネの「かれん」「麗妃」「麗月」、ハウスパルトなどが代表的な耐病性品種として知られています。
品種選びで見落としがちなのが、斑点病耐病性の確認です。萎凋病・半身萎凋病への耐病性は確認するものの、斑点病はそれほど目立った病害でないと思われがちです。しかし、施設栽培で長期にわたって栽培を続けると、下葉の斑点病被害が蓄積して摘葉の手間が増えたり、落葉による品質低下につながることがあります。
斑点病耐病性育種の背景
斑点病は昭和期から施設トマト産地で発生が確認されてきましたが、萎凋病やトマト黄化葉巻病(TYLCV)ほど急激に社会問題化したわけではなく、比較的地味な病害として認識されてきました。
しかし、施設栽培の周年化・長期栽培化が進む中で、施設内の病原菌密度が高まりやすくなり、斑点病の被害が表面化する産地が増えてきました。特に、下葉処理(摘葉)作業の省力化が求められる現代の栽培体系において、斑点病による早期落葉は労力と品質の両面から無視できない問題になっています。
各種苗メーカーは施設向けの複合耐病性品種の開発において、萎凋病・半身萎凋病・葉かび病・斑点病などへの耐病性を組み合わせることを育種目標の一つとしてきました。CF桃太郎シリーズはその代表例であり、複数の病害への耐病性を一品種に集約することで、産地での防除負担を軽減することに貢献してきました。
耐病性の限界と注意点
ここからが実際の栽培で差がつくところです。斑点病耐病性品種を選んでも、高湿度の施設環境下では発病リスクが完全になくなるわけではありません。
Stemphylium spp.は複数の種が存在し、地域や施設によって優勢な系統が異なることがあります。特定の系統に対して耐病性を持つ品種でも、別の系統には感受性を持つ可能性があります。
また、斑点病の耐病性は葉かび病・萎凋病・半身萎凋病・根腐萎凋病・ネコブセンチュウなど他の病害の耐病性とは独立したものです。斑点病耐病性を確認したからといって、他の病害への対策が不要になるわけではありません。複数の病害が問題になる産地では、各病害への耐病性をカタログで個別に確認する作業が重要です。
産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、斑点病が深刻な産地では施設の老朽化・換気不足・密植が複合的に絡んでいることが多く、品種の耐病性だけでは解決しきれないケースもあります。
防除のポイント
斑点病の防除においても、施設内の環境管理が最も重要な手段の一つです。高湿度・葉面結露を防ぐための換気管理を徹底することが、発病リスクを下げる基本的なアプローチです。
環境管理:
- 施設の換気: 天窓・サイドカーテンを適切に開閉し、施設内の湿度を低下させます。朝の早い時間帯の換気開始が効果的です
- 適正な栽植密度: 株間・条間を確保し、株の周囲の通気性を高めることで葉面の乾燥を促します
- 灌水管理: 夕方遅い時間の灌水を避け、朝方に灌水を行うことで夜間の葉面湿度上昇を防ぎます
耕種的防除:
- 罹病した下葉の摘葉・圃場外での処理: 発病した葉は胞子の供給源となるため、早期に除去します。摘葉した葉は圃場内に放置せず、施設外で適切に処理することが重要です
- 輪作: トマト以外の作物との輪作により、施設内の菌密度低下が期待できます
化学的防除:
- 斑点病の登録農薬による予防的な散布が有効です。発病初期からの対応と薬剤ローテーションが感受性低下菌の出現を防ぐ上で重要です
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
施設トマト産地での斑点病対策について、生産者からは「萎凋病やTYLCVほど激烈な被害が出るわけではないが、長期作になると下葉の斑点が増えてきて、摘葉の頻度が上がる」という声が聞かれます。被害が徐々に蓄積するタイプの病害であるため、問題として認識されるまでに時間がかかりやすい側面があります。
耐病性品種を導入した産地では「下葉の斑点が減ったことで摘葉作業の労力が軽減された」という効果を実感している生産者がいます。特に高齢化が進み、作業省力化が課題となっている産地では、斑点病耐病性品種の導入が作業負担の軽減に貢献しているとの報告があります。
また、換気設備の改善と耐病性品種の組み合わせが最も効果的という現場の知見も蓄積されています。品種の耐病性と施設環境の改善を合わせて取り組むことで、より安定した効果が得られるとされています。
まとめ
斑点病はStemphylium spp.が引き起こすトマト病害で、施設内の高湿度条件下で発生しやすい傾向があります。葉かび病とは病原菌が異なりますが、発生環境の条件(高湿度・施設内環境)は共通しており、同様の環境管理が防除に有効です。
大玉トマトでは登録146品種中約67品種(約46%)が耐病性を持ちます。施設栽培で長期作を行う生産者にとっては、摘葉作業の省力化や品質維持の観点から確認が有効な耐病性です。品種選びの際は、萎凋病・葉かび病など他の施設病害の耐病性とあわせて確認し、換気管理・適切な摘葉・必要な薬剤防除を組み合わせることが安定した栽培の基盤となります。
斑点病耐病性を持つ大玉トマトの品種一覧は、ミノリスの品種検索からご確認いただけます。