うどんこ病耐性イチゴ
うどんこ病とは
うどんこ病は、糸状菌(Podosphaera aphanis、旧称 Sphaerotheca humuli var. fragariae)によって引き起こされるイチゴの主要病害の一つです。イチゴうどんこ病は、感染した葉・葉柄・果実・果梗などの表面に白色の粉状(小麦粉をまぶしたような)病斑が形成されることで知られており、病名の「うどんこ」はこの外観に由来します。
感染経路は主に気流による胞子(分生子)の伝播です。罹病した植物体から放出された胞子が風に乗って健全株に到達し、葉面や果実表面に付着・発芽することで感染が成立します。うどんこ病菌は活物寄生性(生きた植物体のみに寄生する性質)であるため、土壌での長期生存は期待されず、主に作付け中の伝播が問題になります。
発生しやすい条件としては、施設内の乾燥気味かつ比較的高温の環境(15〜25℃程度)が挙げられます。うどんこ病は他の多くのカビ病と異なり、多湿ではなく乾燥条件で発病しやすい点が特徴です。日照不足・窒素過多・密植による通風不良なども発病を助長します。
被害の症状は、葉への感染では光合成阻害による生育低下、果実への感染では果実表面への白色粉状菌叢の形成と品質低下です。特に果実への感染は外観を著しく損ない、商品価値を失わせます。施設栽培が中心のイチゴでは、ハウス内という閉鎖空間で胞子が密度高く蔓延しやすく、うどんこ病は生産上の大きな課題となっています。
うどんこ病耐性の区分
イチゴのうどんこ病耐性には、大きく分けて「真性抵抗性」と「圃場抵抗性」の二種類があります。
真性抵抗性は、特定のレース(菌の系統)に対して高度に発病を抑制する遺伝的な仕組みです。農研機構育成の「そよかの」は「うどんこ病レース0に対して抵抗性を有する」と明記されており、特定レースへの真性抵抗性が品種特性として示されています。ただし、真性抵抗性は対応するレース以外には効果が低下することがあります。
圃場抵抗性は、特定レースに限らず、感染後の菌の増殖や発病を全般的に抑制する性質です。多くの「うどんこ病に強い」と表現される品種は、こちらの圃場抵抗性を持つと考えられます。農研機構育成の「カレンベリー」は「うどんこ病に対して強度の抵抗性を示す」、「北の輝」は「うどんこ病に対して強度抵抗性」と記載されており、圃場での高い発病抑制効果が確認されています。
品種データを見ると、もういっこは「うどんこ病に対して抵抗性があります」、おおきみは「うどんこ病に対して強度の抵抗性を示す」とされています。あまえくぼは「うどんこ病に中程度以上の抵抗性を示す」という評価であり、耐性の程度は品種によって異なります。
カタログ上で「うどんこ病に強い」と書かれていても、強度(強・中程度・やや強)の違いがあるため、記述の詳細を確認することが重要です。
歴史と豆知識
イチゴうどんこ病は日本のイチゴ産地において長年にわたって問題となってきた病害です。施設栽培が普及した1960〜70年代以降、閉鎖空間でのうどんこ病の多発が問題化し、防除技術の開発が進められてきました。
意外と知られていないのですが、うどんこ病菌にはレース(系統)が存在します。日本国内でも複数のレースの存在が報告されており、農研機構の「そよかの」がレース0への抵抗性を持つと明記されているのは、このレース特異性を反映したものです。東北地方等で特定のレースが発生していることが確認されており、地域によって発生レースの情報を把握することが品種選びの参考になります。
農研機構育成の「カレンベリー」は1994年の育成実生からの選抜で、「うどんこ病に強い『てるのか』を父親として交雑して育成」と記載されており、育種親の選択の段階からうどんこ病耐性が意識されていたことがわかります。耐病性品種の育種は、防除コストの削減や農薬使用量の削減といった現代的な課題への対応にも貢献しています。
農研機構育成の「デコルージュ」は「うどんこ病に強い抵抗性を持つ」とされており、夏秋どり栽培を含む四季成り性品種でも耐病性育種が進んでいます。
うどんこ病耐性の限界と注意点
耐病性品種を導入しても、うどんこ病を完全に防げるわけではありません。以下の点に注意することが重要です。
レース変異のリスクがあります。うどんこ病菌は変異しやすく、現在の耐性品種に対応できない新レースが出現する可能性があります。特定のレースへの真性抵抗性を持つ品種(そよかの等)は、対応レース以外が優勢な地域では十分な効果を発揮しないことがあります。
品種の耐性レベルには幅があります。「うどんこ病に強い」と記載されていても、「強度」か「中程度」かによって圃場での効果は異なります。あまえくぼのように「中程度以上の抵抗性」と記載された品種は、環境条件によっては発病することがあるため、防除の手を完全に緩めることはできません。
また、農研機構育成の「af01」の品種説明には「うどんこ病については真性抵抗性でないため、育苗期を含め予防的な防除に努めてください」と明記されています。耐病性品種であっても、育苗期の予防防除を省略することは禁物であるという点は、現場での重要な注意事項です。
防除のポイント
うどんこ病の防除は、耐病性品種の利用を基盤に、耕種的防除・化学的防除を組み合わせた総合的な体系で行います。
耕種的防除の基本は、施設内の通風確保と植物体の良好な生育維持です。密植を避け、過繁茂を防ぐ適切な草勢管理が施設内の微気象環境を改善します。窒素過多は葉が軟弱になり感染しやすくなるため、施肥バランスの適正化も重要です。
物理的防除として、紫外線(UV)照射がうどんこ病防除に有効であることが研究で確認されています。UV-Bを照射することでうどんこ病菌の胞子形成を抑制できるとされており、一部の産地ではUVランプを利用した防除が行われています。
化学的防除では、登録農薬を用いた発生初期からの予防的散布が基本です。うどんこ病菌への抵抗性(農薬抵抗性)獲得を防ぐため、作用機序の異なる農薬をローテーションして使用することが重要です。
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
施設イチゴ産地でのうどんこ病対策は、品種の切り替えと防除技術の両輪で進んでいます。
うどんこ病の多発で収量・品質が安定しなかった産地では、耐病性品種への切り替えとともに農薬の使用回数を見直した事例が報告されています。耐病性品種の導入によって初期発生が抑制されると、防除タイミングを遅らせても発病拡大を防ぎやすくなり、結果として農薬使用量の削減につながったケースもあります。
一方で、観光農園での品種選択では「うどんこ病が果実に発生すると来園者の印象を著しく悪化させる」という現場の声もあります。果実外観への影響が直接的な経営リスクになるため、観光農園経営者はうどんこ病耐性を品種選びの最重要条件の一つとして位置づけているケースが多いようです。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。耐病性品種を導入した産地の生産者からは、「病気の心配が減った分、草勢管理・摘果・収穫作業など、収量と品質に直結する作業に集中できるようになった」という声が聞かれます。耐病性品種は防除コストの削減だけでなく、栽培全体の管理水準を底上げする効果も期待できます。
まとめ
うどんこ病はイチゴの施設栽培で最も警戒が必要な病害の一つであり、葉・果実への感染が収量と品質の両方に影響します。耐病性品種の導入は防除コストの削減と品質安定化に有効ですが、耐性のレベル(強度・中程度など)や対応レースの違いを理解したうえで選定することが重要です。
品種の耐病性だけに頼らず、通風確保・草勢管理・薬剤ローテーションを組み合わせた総合的な防除体系を構築することで、安定したイチゴ生産につなげることができます。うどんこ病耐性イチゴの品種一覧は、タグページからご確認いただけます。