根腐萎凋病は、糸状菌のFusarium oxysporum f. sp. radicis-lycopersici(略号: J3)によって引き起こされる土壌伝染性病害です。名称が似た「萎凋病(Fusarium wilt)」「半身萎凋病(Verticillium wilt)」とは病原菌が異なる、別の病害であることをまず押さえておきましょう。
- 萎凋病: Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici(Fol、レース1・2)
- 根腐萎凋病: Fusarium oxysporum f. sp. radicis-lycopersici(J3)
- 半身萎凋病: Verticillium dahliae(Vd)
根腐萎凋病の感染は根と茎の地際部から始まります。茎の地際部が褐変・腐敗し、根が腐敗するのが主な症状です。初期には株の一部がしおれ始め、進行すると株全体が萎凋・枯死します。萎凋病では道管部の変色が主体であるのに対し、根腐萎凋病では根と茎の地際部の腐敗が顕著で、これが「根腐れ」という呼称の由来です。
国内では1980年代以降、施設トマトの連作が一般化するとともに土壌中の菌密度が蓄積し、根腐萎凋病による被害が産地で問題視されるようになりました。「萎凋病耐病性品種を使っているのに発病する」という現象として報告されたことが多く、現在でも新たに問題化する圃場があります。
根腐萎凋病耐病性の区分
根腐萎凋病(J3)への耐病性は、カタログ上では「J3」「Frl」または「FORL」の略号で表記されます。萎凋病の「Fol(または F)」とは別の略号であることに注意が必要です。
品種選びで見落としがちなのが、この根腐萎凋病への耐病性の有無です。萎凋病への耐病性(Fol)は確認しても、根腐萎凋病(J3)まで確認しないケースが見られます。両病害は異なる病原菌によるものですが、カタログの耐病性表示は並列に記載されているため、一行ずつ確認する習慣が求められます。
HR(高度耐病性)・IR(中程度耐病性)の区分
HR(高度耐病性) の品種は通常の病原体密度の条件下では発病を高度に制限しますが、極端に菌密度が高い圃場や他のストレスが重なる状況では発病する可能性があります。IR(中程度耐病性) の品種は感受性品種と比べて発病を抑制しますが、HRほどの効果はありません。
中玉トマトのカタログを確認すると、タキイ種苗(TYフルティカSCなど)や中原採種場(シンディースイートなど)の主要メーカーが根腐萎凋病(J3)への耐病性を品種特性として掲載しています。例えば、タキイ種苗の中玉品種には「根腐萎凋病(J3)に複合耐病性をもつ」と明記されているものがあります。
根腐萎凋病が問題化した背景
意外と知られていないのですが、根腐萎凋病は当初「萎凋病耐病性品種で防げるはず」と認識されていたにもかかわらず被害が続くという形で産地から報告が相次ぎ、その後の研究で萎凋病とは別の病原菌(f. sp. radicis-lycopersici)であることが明らかになりました。
この経緯を受けて、複数の萎凋病系病害(萎凋病・根腐萎凋病・半身萎凋病)に加えてトマトモザイクウイルス(ToMV)・葉かび病・斑点病耐病性・ネコブセンチュウなど多くの病害虫への耐病性を一品種に集約した「複合耐病性品種」の開発が施設トマト育種の重要な方向性となっています。
中玉トマトにおいても、この傾向は同様です。中玉専用の高品質品種に根腐萎凋病耐病性が組み込まれた品種が各社から登場しており、選択肢は着実に広がっています。
耐病性の限界と注意点
根腐萎凋病耐病性品種の導入に際しては、以下の点を理解しておくことが重要です。
菌密度が高い圃場でのリスク
土壌中の菌密度が極めて高い圃場では、耐病性品種であっても発病する可能性があります。長年連作が続いた圃場や、過去に根腐萎凋病の被害が深刻だった圃場では、耐病性品種だけに頼らず土壌くん蒸との組み合わせを検討することが有効です。
萎凋病(Fol)との独立性
根腐萎凋病(J3)への耐病性と萎凋病(Fol)への耐病性は独立しており、一方への耐病性があっても他方は別途対策が必要です。産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、両病害が混在する圃場では両方への耐病性を持つ品種を選択することが望ましいです。
過湿条件下での感染リスク
灌水過多による地際部の過湿は根腐萎凋病の感染リスクを高めます。耐病性品種であっても、極端な過湿条件下では発病リスクが上昇します。品種の耐病性に加えて、栽培環境の管理が防除の基本です。
防除のポイント
根腐萎凋病の防除は、耐病性品種の利用を基本としながら、土壌管理と耕種的対策を組み合わせることが重要です。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。根腐萎凋病は感染が根と茎の地際部から始まるため、地際部の環境管理が防除上のポイントになります。
耕種的防除
- 接ぎ木栽培: 根腐萎凋病耐病性を持つ台木への接ぎ木は有効な防除手段です。台木カタログで「J3」への対応を確認したうえで選択することが重要です
- 地際部の過湿防止: 灌水の過多による地際部の過湿を避けます。適切な灌水管理が基本的な予防策です
- 圃場の排水改善: 排水不良による過湿条件は根腐萎凋病の発生を助長します。畝の高さ調整や暗渠排水の整備が有効です
- 輪作: イネ科作物との輪作により、土壌中の菌密度低下が期待できます
化学的防除
- 定植前の土壌くん蒸(クロルピクリン等)による菌密度の低下が有効です
- 定植時の土壌灌注による初期感染抑制も行われています
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
中玉トマトにおける実態
長期栽培向き中玉トマトの産地では、栽培後半の株の活力低下とともに根腐萎凋病の症状が表れるケースが報告されています。草勢の維持が重要な長期栽培において、根腐萎凋病が株の衰弱を早めることで収量の大幅な低下につながるため、対策の重要性は高いです。
台木の選定においても根腐萎凋病への対応が重視されており、台木カタログでJ3耐病性の有無を確認する生産者が増えています。穂木(品種)と台木の両方に根腐萎凋病への耐病性を持つ組み合わせを採用することで、土壌病害への防御を多層化する取り組みが広まっています。
また、中玉トマトはミニトマトに近い管理感覚で作られる品種が多く、水管理のコントロールが品質と防除の両面で重要なポイントです。地際部が過湿にならないよう、灌水量・タイミングを的確に管理することが根腐萎凋病の予防にもつながります。
まとめ
根腐萎凋病はFusarium oxysporum f. sp. radicis-lycopersici(J3)によって引き起こされる土壌伝染性病害です。名称が似た萎凋病(Fol対応)や半身萎凋病(Vd対応)とは病原菌が異なり、対応する耐病性も別々のものです。萎凋病耐病性品種が根腐萎凋病に効果がない点は特に注意が必要です。
品種選びの際はカタログの耐病性表示で「J3」または「Frl」の記載を個別に確認し、萎凋病(Fol)との区別を確実に行うことがポイントです。耐病性品種の導入に加え、接ぎ木栽培・土壌くん蒸・適切な排水管理・灌水管理を組み合わせることで、より確実な防除効果が期待できます。
根腐萎凋病耐病性を持つ中玉トマトの品種一覧は、ミノリスの品種検索からご確認いただけます。また、大玉トマトにおける根腐萎凋病対策も同様の考え方が基本となります。