根腐萎凋病耐性大玉トマト
根腐萎凋病とは
根腐萎凋病は、糸状菌のFusarium oxysporum f. sp. radicis-lycopersici(フォルム・スペシャレ・ラジシス・リコペルシキ、略号: J3)によって引き起こされる土壌伝染性病害です。
ここで重要なのは、根腐萎凋病と名称の似た「萎凋病(Fusarium wilt)」「半身萎凋病(Verticillium wilt)」は、それぞれ別の病原菌による別の病害だという点です。
- 萎凋病: Fusarium oxysporum f. sp. lycopersici(Fol、レース1・2)
- 根腐萎凋病: Fusarium oxysporum f. sp. radicis-lycopersici(J3)
- 半身萎凋病: Verticillium dahliae(Vd)
同じFusarium oxysporumという名称を持つ菌ですが、f. sp.(special form、フォルマ・スペシャーリス)の区分が異なるため、病害の性質・感染部位・症状・対応する耐病性が異なります。萎凋病への耐病性品種(Fol対応)が根腐萎凋病(J3)には全く効果を発揮しないことを理解しておくことが大切です。
根腐萎凋病の感染は根と茎の地際部(根茎部)から起こります。症状の特徴は、茎の地際部付近が褐変・腐敗し、根が腐敗することです。初期には株の一部がしおれ始め、進行すると株全体が萎凋・枯死します。萎凋病では道管部の変色が主体であるのに対し、根腐萎凋病では根と茎の地際部の腐敗が顕著で、これが「根腐れ」という呼称の由来です。
根腐萎凋病耐病性の区分
根腐萎凋病(J3)への耐病性は、カタログ上では「J3」「Frl」または「FORL」の略号で表記されることが多いです。萎凋病の「Fol(または F)」とは別の略号であることに注意が必要です。
HR(高度耐病性)・IR(中程度耐病性)の区分は、他の病害耐病性と同様の概念が適用されます。
大玉トマトで根腐萎凋病耐病性を持つ品種は、ミノリスに登録された146品種中約23品種(約16%)にとどまります。萎凋病(約61%)や斑点病(約46%)と比べると対応品種が少なく、産地での問題意識が高まっている病害に対して、耐病性品種の選択肢はまだ限られています。
品種選びで見落としがちなのが、この根腐萎凋病への耐病性の有無です。萎凋病への耐病性(Fol)は確認しても、根腐萎凋病(J3)まで確認しないケースが多く見られます。両病害は異なる病原菌によるものですが、カタログの耐病性表示は並列に書かれているため、一行ずつ確認する習慣が求められます。
対応品種の代表としては、タキイ種苗の「CF桃太郎J」「桃太郎ファイト」「桃太郎ピース」、サカタのタネの「麗妃」「麗月」、「ハウスパルト」などが挙げられます。
根腐萎凋病が問題化した背景
根腐萎凋病が日本のトマト産地で認識されるようになったのは1980年代頃からとされています。施設トマトの連作が一般化した時期と重なっており、土壌中の菌密度が年々蓄積することで被害が表面化してきました。
意外と知られていないのですが、根腐萎凋病は当初、「萎凋病に似ているが萎凋病耐病性品種でも発病する」という現象として産地から報告され、その後の研究で別種(f. sp. radicis-lycopersici)であることが明らかになりました。「萎凋病と思って対策していたが実は根腐萎凋病だった」というケースが産地で発生し、耐病性品種を使っているのに効果が出ない原因として注目されるようになりました。
この経緯から、根腐萎凋病への耐病性品種の育種が各メーカーで進められました。萎凋病・半身萎凋病・葉かび病・斑点病・根腐萎凋病・ネコブセンチュウなど複数の病害への耐病性を一品種に集約した「複合耐病性品種」の開発が施設トマト育種の重要な方向性となっています。
耐病性の限界と注意点
根腐萎凋病耐病性品種の導入に際しては、以下の点を理解しておくことが重要です。
最初に押さえておきたいのが、対応品種が146品種中約23品種(約16%)と少ないことです。萎凋病耐病性品種のような豊富な選択肢がないため、根腐萎凋病への対応を優先した場合に、求める他の特性(収量性・食味・草勢など)との兼ね合いが問題になることがあります。産地のニーズと耐病性のバランスを考えて品種を選ぶことが重要です。
次に、土壌中の菌密度が極めて高い圃場では、耐病性品種であっても発病する可能性があります。長年連作が続いた圃場や、根腐萎凋病の被害が深刻だった圃場では、土壌くん蒸との組み合わせが効果的です。
また、根腐萎凋病(J3)の耐病性と萎凋病(Fol)の耐病性は独立しているため、一方があっても他方の対策は別途必要です。産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、両病害が混在する圃場では、両方への耐病性を持つ品種を選択することが有効です。
防除のポイント
根腐萎凋病の防除は、耐病性品種の利用を基本としながら、土壌管理と耕種的対策を組み合わせることが重要です。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。根腐萎凋病は感染が根と茎の地際部から始まるため、地際部の環境管理が防除上のポイントになります。
耕種的防除:
- 接ぎ木栽培: 根腐萎凋病に耐性を持つ台木への接ぎ木は、有効な防除手段です。台木の根腐萎凋病耐病性(J3への対応)を確認した上で選択することが重要です
- 地際部の過湿防止: 灌水の過多による地際部の過湿は、根腐萎凋病の感染リスクを高めます。適切な灌水管理が基本的な予防策です
- 圃場の排水改善: 排水不良による過湿条件は根腐萎凋病の発生を助長します。暗渠排水の整備や畝の高さ調整による排水性の改善が有効です
- 輪作: イネ科作物との輪作により、土壌中の菌密度低下が期待できます。ただし、Fusarium oxysporumは土壌中で長期間生存するため、輪作だけで完全に菌を除去することは困難です
化学的防除:
- 定植前の土壌くん蒸(クロルピクリン等)による菌密度の低下が有効です
- 定植時の土壌灌注による初期感染抑制
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
根腐萎凋病が問題になった産地からは、「萎凋病耐病性品種を使っていたのに株が萎れる」という報告が続き、農業普及指導員が関与して診断した結果、根腐萎凋病だったと判明したという事例が多くあります。
対策として、萎凋病・根腐萎凋病の両方に耐病性を持つ品種への切り替えと土壌くん蒸の組み合わせが有効だった産地の事例が報告されています。品種の複合耐病性を活用することで、複数の土壌病害を一度に対処できるのが現在の施設トマト産地での主流なアプローチです。
また、接ぎ木台木の選定においても根腐萎凋病への対応が重視されるようになっており、台木カタログでもJ3耐病性の有無を確認する生産者が増えています。品種(穂木)の耐病性と台木の耐病性を組み合わせることで、土壌病害への防御を多層化する取り組みが広まっています。
まとめ
根腐萎凋病はFusarium oxysporum f. sp. radicis-lycopersici(J3)によって引き起こされる土壌伝染性病害です。名称が似た萎凋病(Fol、レース1・2対応)や半身萎凋病(Vd対応)とは病原菌が異なり、対応する耐病性も別々のものです。萎凋病耐病性品種が根腐萎凋病に効果がない点は特に注意が必要です。
大玉トマトでは登録146品種中約23品種(約16%)が耐病性を持ち、他の病害に比べて対応品種の選択肢は限られています。品種選びの際はカタログの耐病性表示で「J3」または「Frl」の記載を個別に確認し、萎凋病(Fol)との区別を確実に行うことがポイントです。接ぎ木栽培・土壌くん蒸・適切な排水管理と組み合わせることで、より確実な防除効果が期待できます。
根腐萎凋病耐病性を持つ大玉トマトの品種一覧は、ミノリスの品種検索からご確認いただけます。