多収性イチゴ
多収性とは——収量を左右する特性の仕組み
多収性とは、単位面積あたりの収穫量が多い特性のことです。イチゴの場合、10a(約1反)あたりの商品果収量(出荷できる品質の果実重量)が指標となります。農研機構育成の「夏のしずく」は「寒冷地や高冷地における夏秋どり栽培では3t/10aの商品果収量が見込める」と記載されており、この数値が多収性の一つの目安になります。
多収性を生み出す要因はいくつかあります。第一に、連続出蕾性(花芽が連続して着く性質)の高さです。「恋みのり」(農研機構育成)は「連続出蕾性に優れた多収品種」とされており、収穫のピークが平準化されることで、長期間にわたって安定した出荷が可能です。第二に、花房あたりの着果数と果実の揃い(秀品率)の高さです。揃いが良ければ廃棄果が少なく、商品果収量が増えます。第三に、草勢の維持力です。長期にわたって活発に生育できる品種は、収穫期間を通じて収量を落としにくい傾向があります。
品種データを見ると、章姫は「早期収穫が可能で収量性の高い品種」、さがほのかは「果形が良く収量が多い品種」とされています。また、農研機構育成の「af01」は「普通促成栽培ではとちおとめより2割程度多収」と記載されており、具体的な比較対象をもとにした多収性が示されています。
多収性の魅力
多収性品種を選ぶ最大のメリットは、同じ栽培面積から得られる出荷量を増やし、売上を底上げできる点です。特に固定費(施設・設備費・労働費)が一定の施設栽培では、単収が高いほど収益率が改善します。
連続出蕾性が高い品種は、収穫作業が特定の時期に集中しにくく、収穫ピークを平準化できます。これは労働力の分散という観点から重要で、収穫に必要な人員を一時的に大量確保するコストを抑えられる可能性があります。
農研機構育成の「恋みのり」は「収穫・調製作業の省力化が可能であることから、大規模施設生産に適しています」と記載されています。多収性は規模拡大戦略との相性が良い特性であり、経営規模を拡大したい生産者にとって優先度の高い特性の一つです。
消費者・市場ニーズ
多収性という特性は、消費者に直接訴求するものではありませんが、市場全体での安定供給という観点から重要な意味を持ちます。
安定した量を継続的に出荷できる産地・生産者は、量販店や業務用ユーザーからの信頼を得やすくなります。「欲しいときに必要な量が入らない産地」よりも、「数量が安定している産地」が長期取引先として選ばれる傾向があります。多収性品種を活用することで、契約栽培や定期取引の維持がしやすくなるという間接的なメリットがあります。
業務用途(製菓・外食・加工)では、原料として一定量のイチゴを継続的に調達する必要があります。そのため、多収性品種を栽培する生産者は業務用ユーザーから重視される存在になります。農研機構育成の「af01」は「業務需要に対応した良食味」品種とされており、多収性と業務用品質の両立を意識した育種が進んでいます。
栽培のポイント
ここからが実際の栽培で差がつくところです。多収性品種は潜在的な収量が高い反面、その特性を引き出すためには適切な栽培管理が必要です。
草勢管理が多収性維持の鍵となります。連続して収穫を続けるためには、植物体の生育力(草勢)を収穫期間中ずっと維持することが重要です。農研機構育成の「恋みのり」は「冬期の草勢はかなり強く」とされていますが、一方で「過度の窒素飢餓状態により芽なし株が発生しやすい」という注意点も記載されています。施肥管理で窒素量を適切に維持することが、安定した多収を実現するうえで欠かせません。
花数の多い品種では摘果作業が必要になる場合があります。章姫の品種説明には「摘果をすると大玉率が上がります」と記載されており、多収品種であっても出荷規格に合わせた摘果管理が品質向上につながります。
病害虫防除も多収を維持するうえで重要です。病害によって葉が傷むと光合成能力が低下し、果実の充実に影響します。特に連続出蕾性の高い品種は、長期間にわたって良好な生育環境を維持することが多収の前提条件となります。
育苗期の管理も多収性に影響します。農研機構育成の「恋みのり」の留意点には「過度の窒素飢餓状態により芽なし株が発生しやすいので、育苗から本圃定植後の栽培期間を含め、十分な草勢の確保ならびに肥効の維持に留意してください」と記載されています。育苗段階での管理が本圃での収量に影響することを念頭に置くことが大切です。
品種選びのコツ
多収性イチゴの品種を選ぶ際には、以下の観点から複合的に評価することが重要です。
- 連続出蕾性の高さ:花芽が途切れず連続して着くかどうか。農研機構育成の恋みのりのように「連続出蕾性に優れ、収穫ピークの平準化が可能」と明記された品種は、長期間安定した出荷に向いている
- 秀品率の高さ:多く収穫できても、規格外が多ければ商品果収量は増えない。恋みのりは「果実の揃いに優れ秀品率が高い」と記載されており、収量と秀品率の両立が確認できる
- 草勢の強さと維持力:冬期・厳冬期の低温条件下でも草勢を維持しやすい品種かどうか。施設の加温コストにも影響する
- 早晩性との組み合わせ:多収品種の中でも早生・晩生の差があり、出荷時期と市場価格の動向を考慮して選ぶ
- 収量と食味のバランス:多収型品種は高糖度・高食味品種と特性が競合することがある。販売先の要求品質と収量目標を合わせて判断する
産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、多収性一辺倒で品種を選ぶより、収量・食味・病害耐性のバランスを重視した品種選定が中長期的な安定経営につながります。
市場動向とこれから
農研機構と民間種苗メーカーの共同育種では、多収性と品質の両立を目指した品種開発が活発に進んでいます。af01は「普通促成栽培ではとちおとめより2割程度多収」であり、さらに良食味・機能性成分の高さも備えた品種として注目されています。
大規模施設生産の普及とともに、多収性品種へのニーズはさらに高まると見られます。ハウス単棟での生産から大型連棟ハウスへの規模拡大が進む中で、単収の高さが経営の優劣を左右する場面が増えています。
夏秋どり栽培の拡大も多収性品種の注目度を高めています。農研機構育成の「夏のしずく」や「夏の輝」などの四季成り性品種は、従来のイチゴの端境期である夏秋期に収穫できるため、年間を通じた安定出荷体制の構築に貢献します。夏秋期のイチゴ単価は冬春期と比較して高くなる傾向があり、多収と高単価の相乗効果が期待できる作型として関心が高まっています。
まとめ
多収性イチゴは、単収の向上によって収益性を高めたい生産者にとって重要な品種特性です。連続出蕾性・秀品率・草勢維持力の高さが多収性を支える要因であり、施肥管理・草勢管理・病害防除の総合的な栽培管理がその特性を引き出す鍵となります。
品種選びでは、多収性単独ではなく、食味・病害耐性・出荷時期などの特性とのバランスを見ながら自分の栽培条件と販売先に合った品種を選ぶことが重要です。多収性イチゴの品種一覧は、タグページからご確認いただけます。