斑点病は、Stemphylium lycopersici(ステムフィリウム・リコペルシキ)を病原菌とする糸状菌病害で、トマトの葉・茎・果実に被害を与えます。カタログ上では「LS(Leaf Spot)」または「斑点病(LS)」の略号で耐病性が表記されることが多いです。
主な症状は、葉に現れる小さな褐色〜黒褐色の病斑です。初期には葉の下葉から発生し、多湿条件や過密な栽培環境で葉全体に広がります。病斑が拡大・結合すると葉が早期に黄変・落葉し、光合成能力が低下します。果実への直接的な被害(表面の病斑)も起きることがあり、商品価値の低下につながります。
斑点病は湿度が高く温暖な条件で発生しやすく、施設栽培での換気不足・密植・灌水過多が発病リスクを高めます。降雨の多い時期や台風後など、急激に湿度が上がる条件でも発生しやすいため、露地・雨よけ栽培でも注意が必要です。
葉かび病(Cladosporium fulvum)とは別の病害です。発生部位・病斑の形状・発生条件は似ている部分もありますが、病原菌が異なるため、カタログで「葉かび病(Cf)」と「斑点病(LS)」の耐病性表示が別々になっていることを確認する必要があります。
斑点病耐病性の区分
斑点病への耐病性は、カタログ上では「LS」「斑点病(LS)」と略記されます。葉かび病の「Cf(例: Cf-9)」との混同に注意が必要です。
品種選びで見落としがちなのが、斑点病と葉かび病への耐病性がそれぞれ別に設定されているという点です。葉かびへの耐病性(Cf-9等)があっても、斑点病(LS)への耐病性は別に確認が必要です。品種データを確認すると、斑点病耐病性と葉かび病耐病性を両方持つ品種も多く見られます。
HR・IRの見方
HR(高度耐病性)・IR(中程度耐病性)の概念はトマトの斑点病耐病性にも適用されます。ただし、カタログでは「斑点病に耐病性」「斑点病に抵抗性」という表記が混在していることがあり、耐病性レベルの詳細はメーカーに確認するか、栽培実績を参照することが有効です。
品種データの中でも、中玉トマトにおける斑点病耐病性の記述は多く確認できます。タキイ種苗・サカタのタネ・中原採種場など主要メーカーの中玉品種に斑点病(LS)への耐病性が組み込まれているケースが見られます。
斑点病が問題化した背景
意外と知られていないのですが、施設トマトにおける斑点病の被害は、栽培の高集約化・長期化が進むにつれて問題意識が高まりました。換気が制限されやすい冬期の密閉ハウス内では湿度が上昇しやすく、斑点病菌が繁殖しやすい環境になります。
また、灰色かび病(ボトリチス)・葉かび病・斑点病など複数の糸状菌病害が同時に発生するケースが多く、これらへの総合的な防除体制の中で斑点病耐病性品種の導入が有効な選択肢の一つとして定着しています。
萎凋病・根腐萎凋病耐病性・葉かび病・斑点病・ネコブセンチュウなど複数の病害虫への耐病性を一品種に集約した「複合耐病性品種」の開発は、施設トマト育種の重要な方向性となっています。中玉トマトの主要品種でも、この傾向は顕著で、複数の耐病性を組み合わせた品種が多数登場しています。
耐病性の限界と注意点
斑点病耐病性品種を導入しても、それだけで完全に防除できるわけではありません。
ここからが実際の栽培で差がつくところです。栽培環境の管理が耐病性品種の効果を引き出す大前提です。湿度が極端に高い環境が続くと、耐病性品種であっても発病するリスクがあります。十分な換気・適正な栽植密度・適切な灌水量の管理が、耐病性の効果を最大化するための環境条件です。
生育後半の葉の老化や根の衰弱が進むと、植物体の一般的な抵抗力が低下し、病害に対する感受性が高まります。長期栽培向き中玉トマトでは特に、栽培後半の植物体の活力維持が病害対策の上でも重要です。
殺菌剤の使用を組み合わせる場合は、耐性菌(薬剤耐性菌)の発生を防ぐためにローテーション散布を行うことが基本です。同じ有効成分を連用することで耐性菌が出現し、防除効果が低下するリスクがあります。
防除のポイント
斑点病の防除は、耐病性品種の利用を軸に、耕種的防除と化学的防除を組み合わせることが基本です。
耕種的防除
- 換気管理: 施設内の湿度を下げることが最重要の予防策です。天窓・側面換気窓を活用して空気を流通させ、葉面が過湿にならないよう管理します
- 適正な栽植密度: 過密植は通気性を悪化させ、斑点病の発生リスクを高めます。品種の推奨株間・条間を守ります
- 摘葉: 下葉の早期老化した葉・病斑が出た葉は積極的に除去し、発生源を減らします。摘葉後は傷口からの感染を防ぐため、乾燥した条件で行い、必要に応じて殺菌剤を塗布します
- 灌水管理: 灌水過多を避け、葉面の過湿を防ぎます。灌水タイミングは午前中が望ましく、夕方以降の過湿を避けます
化学的防除
- 登録のある殺菌剤を予防的に散布します。特に湿度が高くなりやすい梅雨時期・秋雨の時期に合わせた散布計画が有効です
- 抵抗性菌の出現を防ぐため、異なる系統の殺菌剤をローテーションで使用します
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場での活用
産地において斑点病耐病性を持つ中玉トマト品種への切り替えは、農薬散布回数の削減(減農薬栽培の実現)という観点でも評価されています。品種データの中にも「葉かび病(Cf9)、斑点病(LS)の耐病性をもっているため、減農薬栽培が可能」という記述が確認できます。
農薬散布回数の削減は、コスト削減だけでなく、作業の安全性・環境負荷の低減・GAP(農業生産工程管理)への対応という観点からも意義があります。特に、産地ブランドとして「減農薬栽培」「安心・安全」を訴求したい場合、耐病性品種の活用は重要な基盤となります。
斑点病耐病性は、他の複合耐病性と組み合わせて評価することで、総合的な病害管理体系の構築につながります。産地の病害発生状況に応じて、何の病害への耐病性を優先するかを明確にしてから品種を選ぶことが実用的な方針です。
まとめ
斑点病はStemphylium lycopersici(LS)によって引き起こされる糸状菌病害で、施設栽培・露地栽培の両方で発生リスクがあります。葉かび病(Cf)とは別の病害であり、カタログで耐病性を確認する際は「LS」の記載を個別に確認することが重要です。
耐病性品種の導入は斑点病防除の有効な手段ですが、十分な換気管理・適正な栽植密度・摘葉などの耕種的防除と組み合わせることで効果が最大化されます。減農薬栽培を目指す産地では、複合耐病性品種の活用が防除体系の基盤となります。
斑点病耐病性を持つ中玉トマトの品種一覧は、ミノリスの品種検索からご確認いただけます。大玉トマトやミニトマトでも斑点病耐病性は重要な選定基準であり、それぞれの品種ページで耐病性情報を確認できます。