施設園芸は「減って、大きくなる」
— 面積は縮小、でも大規模ハウスだけは増えている
「耕作放棄地が増える」「農家が減る」——農業の縮小はよく語られる。施設園芸(ハウス・温室)も、面積・担い手ともに長期的に減ってきた。だが規模別に分けてみると、そう単純ではない。小〜中規模の施設がすべて減るなかで、1ha以上の大規模施設だけは増えている。背景には、経営費の約3割を占める光熱動力費と近年の燃料高騰、そして環境制御など施設の高度化がある。数を減らしながら大きく・濃くなっていく施設園芸のいまを、農林水産省のデータから読み解く。
ミノリス編集部
データ編集部
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施設園芸は面積・担い手ともに減少(面積は2010→2025年で▲26%、農家は188→128千経営体)。だが規模別では1ha以上の大規模施設だけが増加(+33%)。経営費の約3割を光熱動力費が占める施設は燃料高騰の淘汰圧が強く、大規模化と高度化が進む二極化が起きている。
キー数値
| 施設面積(2025年) | 30,409ha | 2010年比 ▲26% |
| 1ha以上の施設面積 | +33% | 唯一増えた規模帯 |
| 施設農家数 | 188→128千 | 経営体(2010→2025) |
| 光熱動力費の割合 | 経営費の約3割 | 露地は約1% |
| 複合環境制御装置 | 温室の3.6% | 高度化はこれから |
Key Findings
- 施設面積は減り続けている。農林業センサスで2010年41,312ha→2025年30,409ha(▲26%)。別統計でも1999年の53,516haをピークに2024年37,278haへ。
- 担い手も減少。施設農家は188→128千経営体(2010→2025)。1戸当たり面積は約20aで横ばいで、規模拡大ではなく戸数減が面積減の主因。
- だが1ha以上の大規模施設だけは増加。5,915→7,896ha(+33%)。小〜中規模がすべて減るなか唯一伸び、面積が大規模層に集約している。
- 背景に資材・燃料高騰。施設は経営費の約3割が光熱動力費(露地は約1%)。A重油は2020年5月66.8円/L→2026年3月91.7円/L(+37%)と高止まり。
- 高度化はこれから。環境制御装置を備えた温室は複合環境制御3.6%・養液栽培4.2%とまだ少数。加温は43.3%、完全人工光型植物工場は21ha。
1. 施設面積も、担い手も減っている
まず全体像から。施設園芸の面積は長期的に縮小してきた。農林業センサスでみると、施設設置面積は 2010年の41,312haから2025年は30,409haへ、15年で▲26%。別の統計(園芸用施設の設置等の状況)でも、設置実面積は 1999年(平成11年)の53,516haをピークに、2024年は37,278haまで減っている。
担い手の減少も著しい。施設園芸を営む農家は 2010年の18.8万経営体から2025年は12.8万経営体へ。しかも1戸当たりの施設面積は 約20aでほぼ変わっていない。つまり、1戸が規模を広げたのではなく、施設をやめる農家が増えたことが面積減の主因だ。
出典:農林水産省 施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)/ 農林業センサス
農林水産省 施設園芸をめぐる情勢
2. でも「大規模施設だけ」は増えている
ところが、規模別に分けると意外な姿が見えてくる。図2は規模帯ごとの施設面積を2010年と2025年で比べたものだ。10a未満から50a〜1haまで、小〜中規模はすべて減少している(▲27〜▲40%)。ところが 1ha以上だけは5,915ha→7,896haへ+33%と、唯一増えている。
全体は縮んでいるのに、大規模施設だけが伸びる——面積が大規模層に集約する「二極化」が進んでいる。少ない担い手で量を確保するために、規模の大きい経営に施設が集まってきている、という構図だ。
出典:農林水産省 施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)/ 農林業センサス
農林水産省 施設園芸をめぐる情勢
3. なぜ小さな施設が減るのか ― 燃料コストの重さ
なぜ小〜中規模の施設が減るのか。大きな要因のひとつが コスト構造だ。施設園芸はハウスを暖める燃料を大量に使うため、経営費に占める光熱動力費の割合が高い。図3のとおり、施設温州ミカンで36%、施設ピーマン・施設ばらで28%——経営費の約3割が光熱動力費だ。露地ピーマンの約1%とは桁が違う。
そこに近年の燃料高騰が重なった。施設園芸で使う A重油の価格は、2020年5月の66.8円/Lから2026年3月には91.7円/Lへ(+37%)。ロシアによるウクライナ侵略や中東情勢の影響もあり、高い水準で推移している。以前の資材コストの記事でも、燃料は2020年比+30%で高止まりしていた。
コスト高を販売価格に十分に転嫁できなければ、規模の小さい経営ほど続けるのが難しくなる。燃料高は、小規模施設の撤退を後押しする圧力として働いている。
出典:農林水産省 施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)/ 農業物価統計調査
農林水産省 施設園芸をめぐる情勢
4. 残って伸びる施設は「大きく・濃く」なる
残って伸びているのは、規模が大きく生産性の高い施設だ。ただし「高度化」の中身は、まだ全体の一部にとどまる。図4は温室(37,278ha)のうち、各装置を備えた面積の割合だ。加温設備は43.3%と普及しているが、複合的な環境制御装置を備えた温室は3.6%、養液栽培施設は4.2%にすぎない。太陽光を使わない 完全人工光型の植物工場に至っては、全国で21ha(推計)だ。
つまり、環境をきめ細かく制御する高度な施設は これから広がる段階にある。国も「次世代施設園芸拠点」として、①高度な環境制御による生産性向上、②地域エネルギー活用による化石燃料依存からの脱却、③大規模化と集積によるコスト低減を進めている。大規模化と高度化は、燃料高という逆風のなかで進む「守りと攻め」の両輪だ。
出典:農林水産省 施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)/ 園芸用施設の設置等の状況(令和6年)
農林水産省 施設園芸をめぐる情勢
5. 生産者にとっての意味
この20年が示すのは、施設園芸が 「数を減らしながら、大きく・濃くなっていく」方向にあることだ。面積も担い手も減るが、残る施設は大規模化し、環境制御など生産性を高める投資が進む。
燃料高が続くほど、①規模を生かした省エネ・環境制御への投資、②燃料に依存しない熱源(地域エネルギー・ヒートポンプ等)の活用、③販売価格への転嫁や契約取引が、経営を分ける。一方で、小規模でも周年・高付加価値の品目で生き残る道もある。二極化は「大きくなければ生き残れない」という単純な話ではない。
まず、自分の施設のコスト構造(とくに燃料費の比率)をデータで把握することが、次の投資判断の出発点になる。何にいくらかかっているかが見えて初めて、規模を追うのか、高付加価値を追うのかを選べる。
全データを表示(規模別の施設面積・温室の高度化装置)
表1. 規模別の施設設置面積の推移(ha・農林業センサス)
| 規模 | 2010年 | 2015年 | 2020年 | 2025年 |
|---|---|---|---|---|
| 10a未満 | 2,249 | 2,207 | 1,763 | 1,632 |
| 10〜30a | 11,977 | 9,754 | 8,123 | 7,554 |
| 30〜50a | 10,692 | 8,564 | 7,110 | 6,375 |
| 50a〜1ha | 10,479 | 8,743 | 7,904 | 6,952 |
| 1ha以上 | 5,915 | 5,917 | 7,896 | 7,896 |
| 合計 | 41,312 | 35,185 | 32,796 | 30,409 |
表2. 温室の高度化装置の設置状況(2024年・温室37,278ha中)
| 装置・区分 | 面積(ha) | 温室全体に占める割合 |
|---|---|---|
| 加温設備 | 16,162 | 43.3% |
| 炭酸ガス発生装置 | 2,379 | 6.4% |
| 養液栽培施設 | 1,557 | 4.2% |
| 複合環境制御装置 | 1,397 | 3.6% |
| 完全人工光型植物工場 | 21 | ― |
※規模別面積は農林業センサス(2010・2015年は販売農家数ベース、一部組替集計)。温室の高度化は「園芸用施設の設置等の状況(令和6年)」。植物工場21haは「植物工場全国実態調査・優良事例調査(R8.3)」推計値。別統計の設置状況調査では施設設置実面積は1999年の53,516haをピークに2024年37,278haへ減少。
6. 出典・データ・引用について
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出典:農林水産省「施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)」(園芸用施設の設置等の状況 / 農林業センサス) ※ミノリス調べ(https://minorisu.com/p/facility-001-greenhouse-consolidation)
施設園芸の面積は2010→2025年で▲26%、農家は188→128千経営体へ減少。だが規模別では1ha以上の大規模施設だけが+33%と増加した。施設は経営費の約3割を光熱動力費が占め、A重油は2020年比で大きく上昇。大規模化と高度化が進む二極化が起きている(農林水産省「施設園芸をめぐる情勢」令和8年5月)。詳細はミノリスのまとめページを参照。 https://minorisu.com/p/facility-001-greenhouse-consolidation
グラフ出典:ミノリス「施設園芸は『減って、大きくなる』」(https://minorisu.com/p/facility-001-greenhouse-consolidation) 原典:農林水産省 施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月) https://www.maff.go.jp/j/seisan/ryutu/engei/sisetsu/
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データ・ライセンス
本記事の原データは農林水産省「施設園芸をめぐる情勢(令和8年5月)」(園芸用施設の設置等の状況・農林業センサス・農業物価統計調査)に基づく。同省ウェブサイトの利用規約に従い、出典を明記すれば利用できる。
本記事のグラフ・解説テキストは CC BY 4.0 でライセンスされており、出典(ミノリス + 上記原典URL)を明記すれば商用利用を含め自由に引用・転載できる。
データ取得日:2026年7月3日 / 最終更新:2026年7月 / 次回更新予定:農林水産省の資料更新に合わせる