農業資材コストはどれだけ上がったのか
— 肥料・飼料・燃料と「交易条件」の4年 ― 農業物価データで読む
肥料、飼料、燃料、ハウスの資材——農業の現場で「コストが上がった」という実感は強い。それは統計でも裏づけられる。農林水産省の農業物価統計を見ると、農業生産資材の価格は2021年から急上昇し、肥料は一時2020年の1.5倍近くまで跳ね上がった。問題は、資材が先に上がり、農産物の販売価格が遅れて動いたこと。その差が生産者の手取りを直接削った。資材はどれだけ上がり、販売価格はどう追いかけ、いま経営環境はどうなっているのか。価格指数の4年をたどる。
ミノリス編集部
データ編集部
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農業生産資材は2021年以降に急騰し、肥料は2023年に2020年比+47%(指数147)。資材の上昇に農産物価格が追いつかず、農業交易条件指数は2022年に87.7まで悪化した。
キー数値
| 肥料(2023年ピーク) | 147 | 2020年比 +47% |
| 飼料(2024年) | 140.5 | +41% |
| 光熱動力・燃料(2024年) | 130.0 | +30% |
| 資材総合(2024年) | 120.6 | +21% |
| 交易条件指数(2022年) | 87.7 | 100未満=手取り悪化 |
Key Findings
- 肥料は2023年に147(2020年比+47%)まで急騰。2024年も136.9と高止まりしている。
- 飼料・燃料・建築資材も2割以上高い。2024年で飼料140.5、燃料130.0、建築資材137.0。資材総合でも120.6(+21%)。
- 資材が先に上がり、販売価格は遅れた。農産物価格は2022年も102.2とほぼ横ばいで、コスト高をすぐには転嫁できなかった。
- 交易条件指数は2022年に87.7まで悪化。資材価格の上昇に販売価格が追いつかず、生産者の手取り環境が大きく悪化した。
- 2024年は販売価格がようやく上昇。米+26.9%・野菜+12.7%・果実+18.6%で交易条件は97.3まで回復。ただし依然100未満で、コスト高は続いている。
1. 資材はどれだけ上がったのか
まず資材の価格そのものを見る。図1は主要な農業生産資材の価格指数(2020年=100)の推移だ。2021年から全体に上昇し、とくに 肥料は2022年に130.8、2023年には147.0まで跳ね上がった。2020年比で +47%、月次ベースでは2023年前半に155前後(約1.5倍)に達した。輸入に頼る肥料原料の国際価格高騰が背景にある。
上がったのは肥料だけではない。飼料は2023年に145.7(畜産経営を直撃)、建築資材は133〜137(ハウス・施設の新設・更新コスト増)、光熱動力(燃料)は2022年に127.3。資材総合でも2023年に121.3でピークをつけ、2024年も120.6と高止まりが続いている。
出典:農林水産省 農業物価統計調査(令和6年・令和2年=100)
農林水産省 農業物価統計調査
2. 資材は上がり、売値は遅れた ―「ワニの口」
コストが上がっても、その分を販売価格に乗せられれば経営は守られる。だが実際には 資材の上昇に農産物価格が追いつかなかった。図2は、資材価格指数(コスト)と農産物価格指数(販売価格)を重ねたものだ。2021〜2023年、オレンジ(資材)が緑(販売価格)を大きく上回り、2本の線が 「ワニの口」のように開いた。
この差を一本の指標にしたのが 農業交易条件指数(農産物価格指数 ÷ 資材価格指数 ×100)だ。100を下回るほど、生産者にとって不利な状況を意味する。2020年の100から、2022年には87.7まで低下。これは、同じ作物を同じだけ作っても、資材高の分だけ手取りが目減りしたことを示している。
出典:農林水産省 農業物価統計調査(令和6年・令和2年=100)
農林水産省 農業物価統計調査
3. いま高止まりしているのはどの資材か
ピークは越えたものの、資材価格は2020年の水準には戻っていない。図3は2024年時点の価格指数を資材区分別に並べたものだ。飼料(140.5/+41%)・建築資材(137.0/+37%)・肥料(136.9/+37%)・燃料(130.0/+30%)が突出して高い。種苗・農機具・農業薬剤は緩やかな上昇(+8〜15%)にとどまる。
とくに 肥料・飼料・燃料は、ほとんどの経営が避けて通れない基礎的な資材だ。これらが3〜4割高い状態が続くことは、品目を問わず経営コストの底上げになっている。施設園芸では、ここに建築資材の高騰(ハウス更新費)も重なる。
出典:農林水産省 農業物価統計調査(令和6年・令和2年=100)
農林水産省 農業物価統計調査
4. 販売価格は遅れて上がった ― 品目で異なる回復
交易条件が2024年に回復したのは、ようやく 農産物の販売価格が上がったからだ。図4は品目別の価格指数の推移。最も象徴的なのが 米で、資材が高騰していた2022年にはむしろ 82.0まで下落していた。コスト高のさなかに売値が下がるという、生産者にとって最も苦しい状況だった。
それが2024年には 米+26.9%・野菜+12.7%・果実+18.6%と大きく上昇した。資材高から数年遅れての値上がりだ。一方 畜産物は110.6と、飼料高のなかで販売価格の伸びが鈍く、品目によって回復の度合いには差がある。
出典:農林水産省 農業物価統計調査(令和6年・令和2年=100)
農林水産省 農業物価統計調査
5. 生産者にとっての意味
この4年が示すのは、「コストは先に、売値は後から」動くという現実だ。資材が上がった局面で販売価格をすぐに上げられないと、その間の手取りは確実に削られる。価格転嫁の遅れは、経営の体力を直接奪う。だからこそ、資材コストの把握と、販売価格への反映(価格交渉・契約・直売など)が、これまで以上に経営の鍵になる。
資材側でできる対策もある。土壌診断にもとづく施肥の適正化(過剰な肥料を減らす)、堆肥・有機質資材の活用、共同購入や燃料効率の改善など、コスト構造そのものを見直す動きは、資材高が続くほど効いてくる。前回の記事で見たように新規就農者の有機志向が高いのも、こうしたコスト・環境への意識と無関係ではない。
交易条件指数は2024年に97.3まで戻したが、まだ2020年の水準(100)には届いていない。資材は高止まり、販売価格は品目で差がある——この状況を データで定点観測することが、経営判断の出発点になる。
全データを表示(資材・農産物の年次別価格指数、交易条件指数)
表1. 農業生産資材の年次別価格指数(令和2年=100)
| 区分 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 農業生産資材(総合) | 100.1 | 100.0 | 106.7 | 116.6 | 121.3 | 120.6 |
| 肥料 | 99.2 | 100.0 | 102.7 | 130.8 | 147.0 | 136.9 |
| 飼料 | 99.4 | 100.0 | 115.6 | 138.0 | 145.7 | 140.5 |
| 光熱動力(燃料) | 107.8 | 100.0 | 112.3 | 127.3 | 126.9 | 130.0 |
| 建築資材 | 98.4 | 100.0 | 113.0 | 133.3 | 137.2 | 137.0 |
| 農業薬剤 | 98.2 | 100.0 | 100.2 | 102.9 | 112.9 | 114.8 |
| 諸材料 | 96.9 | 100.0 | 100.1 | 103.3 | 112.3 | 116.9 |
| 農機具 | 98.4 | 100.0 | 99.9 | 100.9 | 105.0 | 108.3 |
| 種苗及び苗木 | 97.4 | 100.0 | 101.5 | 104.0 | 106.8 | 109.6 |
表2. 農産物の年次別価格指数(令和2年=100)
| 区分 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 農産物(総合) | 98.5 | 100.0 | 100.8 | 102.2 | 108.6 | 117.3 |
| 米 | 101.7 | 100.0 | 88.6 | 82.0 | 90.2 | 114.5 |
| 野菜 | 95.9 | 100.0 | 96.7 | 106.2 | 113.3 | 127.7 |
| 果実 | 87.5 | 100.0 | 100.9 | 101.4 | 105.3 | 124.9 |
| 畜産物 | 102.2 | 100.0 | 105.6 | 105.3 | 113.4 | 110.6 |
表3. 農業交易条件指数(農産物価格指数 ÷ 資材価格指数 × 100)
| 区分 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | 2024 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 農業交易条件指数 | 98.4 | 100.0 | 94.5 | 87.7 | 89.5 | 97.3 |
※指数は各年平均価格 ÷ 令和2(2020)年平均価格 ×100。交易条件指数が100未満=2020年より生産者の収益環境が悪いことを示す。
6. 出典・データ・引用について
引用テンプレート(コピーしてご利用ください)
出典:農林水産省「農業物価統計調査」(令和6年・令和2年=100基準) ※ミノリス調べ(https://minorisu.com/p/materials-001-input-price-surge)
農業生産資材の価格は2021年以降に急騰し、肥料は2023年に147(2020年比+47%)、飼料145.7、燃料130に達した。資材の上昇に販売価格が追いつかず、農業交易条件指数は2022年に87.7まで悪化(農林水産省「農業物価統計調査」令和6年・令和2年=100)。詳細はミノリスのまとめページを参照。 https://minorisu.com/p/materials-001-input-price-surge
グラフ出典:ミノリス「農業資材コストはどれだけ上がったのか」(https://minorisu.com/p/materials-001-input-price-surge) 原典:農林水産省 農業物価統計調査 https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/noubukka/
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データ・ライセンス
本記事の原データは農林水産省「農業物価統計調査」(令和2年=100基準)に基づく。同省ウェブサイトの利用規約は公共データ利用規約(PDL 1.0)に準拠し、出典を明記すれば改変・再配布が可能。
本記事のグラフ・解説テキストは CC BY 4.0 でライセンスされており、出典(ミノリス + 上記原典URL)を明記すれば商用利用を含め自由に引用・転載できる。
データ取得日:2026年6月15日 / 最終更新:2026年6月 / 次回更新予定:2027年(農業物価統計の年次更新に合わせる)