白さび病耐性コマツナ
白さび病とは
白さび病は、卵菌類のAlbugo candida(旧名:Cystopus candidus)によって引き起こされるアブラナ科作物の病害です。一般的な糸状菌(カビ)とは分類学上異なる卵菌類に属しますが、防除の考え方は糸状菌による病害に準じます。コマツナ(Brassica rapa var. perviridis)はアブラナ科アブラナ属に属するため、白さび病の罹病リスクが高い作物の一つです。
症状の特徴として、葉の裏面に光沢のある白色〜乳白色のいぼ状・粉状の突起(胞子堆)が形成されます。これが「白さび」と呼ばれる外観の由来です。葉の表面には胞子堆と対応する位置に黄緑色〜黄色の病斑が現れます。感染が進行すると、葉全体に斑点が広がって商品価値が著しく損なわれ、重篤な場合は葉が早期に黄化・枯死します。
白さび病は低温・多湿の条件で発生しやすく、秋から春にかけての冷涼な時期に被害が拡大する傾向があります。露地栽培・施設栽培の両方で発生が見られますが、特に低温期の施設栽培や秋〜冬の露地栽培での被害が目立ちます。アブラナ科作物全般に共通する病害であるため、キャベツ、ハクサイ、チンゲンサイ、ブロッコリーなどを含む多種目栽培の圃場では感染源が蓄積しやすい点にも注意が必要です。
白さび病耐性の区分
コマツナにおける白さび病耐性は、品種によって耐性の程度が異なります。種苗メーカーのカタログでは「白さび病耐性」「白さび病に強い」などの表記で示されていますが、トマトのTYLCV耐病性のようにHR・IRの国際基準で明確に区分されているケースは多くありません。
品種選びで見落としがちなのが、この耐性表記の意味する範囲です。「白さび病耐性」と表記されていても、耐性のレベルや試験条件が品種によって異なる場合があります。メーカーカタログに「耐性」と記載されていても、高い感染圧の条件下では発病することがあります。
Albugo candidaにはアブラナ科の異なる作物に特異的な複数のレース・変種(forma specialis)が存在することが知られています。コマツナ・カブ・ハクサイなど同じアブラナ属(Brassica rapa)に属する作物間での交差感染が起こりやすく、圃場内の他作物からの感染源管理も耐病性品種の利用と合わせて考えておくことが重要です。
歴史と豆知識
コマツナは江戸時代から続く東京の伝統野菜であり、東京都江戸川区の小松川地区が発祥の地とされています。長い栽培の歴史の中で、白さび病は日本のコマツナ栽培と古くから関わりのある病害です。
意外と知られていないのですが、白さび病菌(Albugo candida)は「さび病」という名前がついていますが、錆色の症状を特徴とする一般的なさび病(担子菌類)とは全く異なる菌類です。白さび病は卵菌類に属し、分類学的にはサビ病菌・うどんこ病菌よりも、ジャガイモ疫病菌(Phytophthora infestans)に近い位置づけにあります。このため、一般的な糸状菌防除剤が効果を発揮しにくいケースがあり、卵菌類に効果のある薬剤を選択することが重要です。
耐病性コマツナの育種は、白さび病だけでなく萎黄病・根こぶ病など複数の病害への複合耐性の付与という方向で進んでいます。単一病害への耐性だけでなく、周年栽培で問題になる複数の病害をカバーできる品種が生産現場に歓迎されています。
耐病性の限界と注意点
白さび病耐性品種を導入しても、それだけで発病を完全に防ぐことはできません。以下の点を踏まえた栽培管理が必要です。
環境条件による発病リスクの変動が大きい病害です。耐病性品種であっても、低温・多湿条件が長く続く年や、施設内の結露が多い時期には発病することがあります。特に、秋雨の時期や冬季の低温期には発病しやすくなるため、換気による湿度管理が重要です。
連作による感染リスクの蓄積も見逃せません。Albugo candidaの卵胞子は土壌中・残渣中で長期間生存できます。アブラナ科作物の連作が続く圃場では、感染源が蓄積して発病圧が高まります。前作の残渣を徹底的に処分することが、発生を抑制する基本的な対策の一つです。
圃場内の他のアブラナ科作物からの感染にも注意が必要です。コマツナと同じ圃場や隣接圃場でハクサイ・カブ・チンゲンサイが栽培されている場合、これらの作物が感染源になる可能性があります。複数のアブラナ科作物を扱う産地では、圃場全体の病害管理を考慮した品種選定が重要です。
防除のポイント
白さび病の防除は、耐病性品種の利用を基本に、耕種的防除・化学的防除を組み合わせて行います。
湿度管理が最も重要な耕種的防除です。施設栽培では、低温期の朝方の結露や換気不足による多湿環境が発病を助長します。夜間から早朝にかけての換気を適切に行い、施設内の過湿を防ぐことが発病抑制の基本です。
栽植密度の適正化も有効です。過密な定植・播種は株間の通気を悪化させ、白さび病の発生しやすい多湿環境を作ります。品種の推奨密度を守り、間引きを適時に行うことで、葉面の乾きやすい環境を維持できます。
前作残渣の処理は感染源の削減に有効です。罹病した葉や茎は胞子の供給源になるため、収穫後の残渣を速やかに圃場外に搬出・処分します。残渣を圃場内に放置すると土壌中の菌密度が上がり、次作でのリスクが高まります。
化学的防除については、コマツナ(小松菜)に登録のある殺菌剤を発生初期に散布することが効果的です。白さび病は卵菌類によるため、卵菌類に効果のある薬剤(メタラキシル系等)の使用が有効とされています。ただし、登録農薬の確認は必須です。
※農薬の使用にあたっては、必ず最新の農薬登録情報を確認し、ラベルの記載内容に従ってください。
現場の声
コマツナの周年栽培が盛んな産地では、白さび病はとりわけ秋〜冬〜春にかけての低温期に問題になりやすい病害として認識されています。
施設栽培の生産者からは、「白さび病耐性品種を選んでいても、湿度管理を怠ると発病する」という声が多く聞かれます。換気が不十分な夜間・早朝の施設内は湿度が高くなりやすく、このタイミングでの感染リスクが高まるため、自動換気の導入やサイド開閉のタイミングの工夫が病害管理の差につながっています。
産地によって事情が異なるので一概には言えませんが、露地栽培のコマツナ産地では秋雨の多い年に白さび病の発生が目立つ傾向があります。こうした年は耐病性品種でも発病が見られるため、耐病性品種の選定に加えて、薬剤の予防散布計画を事前に立てておくことが重要とされています。
コマツナは播種から収穫まで20〜45日程度と生育期間が短いため、病害発生後の回復が難しい場合があります。「発病してから対処する」ではなく、「発病させない」予防的な管理を徹底することが現場での共通認識です。
まとめ
白さび病は卵菌類(Albugo candida、旧名Cystopus candidus)によるアブラナ科の病害で、葉裏の白色いぼ状の胞子堆が特徴的な症状です。コマツナは低温・多湿の条件で感染リスクが高まるため、秋〜冬〜春の栽培では特に注意が必要です。
耐病性品種の導入は発病リスク低減の有効な手段ですが、環境条件(低温・多湿)によっては耐性品種でも発病することがあります。湿度管理・残渣処理・輪作・適期の薬剤散布を組み合わせた総合防除体系を構築することが安定したコマツナ生産の基盤となります。品種カタログの耐性表記と合わせて、地域の発生状況を普及センターで確認しながら品種選定を行うことをお勧めします。
白さび病耐性コマツナタグが付いた品種の一覧は、ミノリスの品種ページでご確認いただけます。